2011年12月アーカイブ

『萩を揺らす雨―紅雲町珈琲屋こよみ』吉永 南央

コーヒー豆と和食器を扱うお店を営む老女杉浦草。 「自分が動かずに後悔するようなことはしたくない」と店の客たちの会話から気になったことは調べずにはいられない性分だ。 周囲の人たちと互いに支えあいながら暮らす草が、身近で起こった事件を謎解いていく。

会話がきっかけとなり老女が謎解きをしていくとなれば、誰でもミス・マープルを思い出すはず。
ミス・マープル好きの自分としては、衝動買いせずにはいられなかった。

とは言え表紙が可愛らしくあらすじ紹介からも軽いノリのおばあさん探偵物語の様子。
別物だろうとは思って読み始めたものの、予想と全く違う方向性の小説で驚いた。

主人公の草は、子供を死なせたことを負い目に暮らす一人暮らしのおばあさん。
体もあちこちがたがきていて自分の先のことへの不安は尽きないし、頼りの親友は痴呆が始まっている。
草自身、調べごとのために夜間外出して徘徊老人と間違われて悔しい思いをすることも。
とても悲哀に満ちた探偵役だ。

おばあさん探偵の魅力は長年の知恵で難問を解決していくところだと思うが、この作品ではどちらかというとネガティブな部分に多くスポットが当たっている。

事件も虐待や援助交際、クスリなど現代的な問題を扱う連作短編集。
誰も殺されはしないが、問題があまりよろしくない人間関係や深層心理にあるので読んでいてがっくりくるようなミステリになっている。

草が抱える過去や不安な未来、周囲の人たちの人情や葛藤など人間描写が生々しくて共感しやすく、繊細な描写はとても巧いと思う。

しかし、表紙を見て軽いコージーミステリを期待してしまうのがいけない。
しみじみとした作品を読みたい気分だったらしっくりきたと思う。
もっとしっとりとした表装と紹介文にして、高い年齢層向けに宣伝した方が裏切られた感が少なくてすむのではないだろうか。

読了日:2011.12
★★★☆☆

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2011年12月20日

ruru (11:38)

カテゴリ:国内ミステリーその他の作家(ミステリー)

『いのちのうた―まど・みちお詩集』まど みちお

まどみちおさんの詩集。

「ぞうさん」「やぎさん ゆうびん」「一ねんせいになったら」など有名な童謡だけでなく、戦時協力詩、2000年代の生と死を考えるような詩まで長年に渡って書かれた様々な詩をまとめている一冊。

可愛らしい言葉遊びの詩もあれば、哲学的な詩もあるが、一貫して感じるのは全ての命慈しむ愛と瑞々しい感性。

人間だけでなく植物にも動物にも、時には物に対してでも生き生きとした意思を感じさせられる詩の数々は気持ちをとても爽やかにさせてくれる。

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2011年12月11日

ruru (18:06)

カテゴリ:詩集

『真夜中の探偵』有栖川 有栖

戦後南北に分断され、探偵行為が禁止されている日本。 空閑純の父で名探偵だった誠は逮捕され、母はある事件を追ったまま行方不明となっている。 純はアルバイトで生計を立てながら、探偵を目指しながら母を探し出そうとしていた。 元探偵の殺人事件を解決することで仲介者に探偵として認めてもらおうとするのだがー。

『闇の喇叭』続編。

大阪に戻って自活しながら探偵を目指す純。
やっと現れた仲介者やその仲間たちの真意、怪しい隣人、元探偵の殺人事件など様々な謎が続く。

元探偵の殺人事件はいかにもなトリックで悪くないのだが、探偵行為の正当性というかこの新世界の世界観ばかりに重点があるようでそれほどはまり込んで読み進むことができなかった。

執拗に探偵を追い込もうとする警察と感情的に探偵は素晴らしいと繰り返す純にやや引いてしまう。
探偵愛はわかるし、現代社会の問題なども取り入れていきたいのだろうという意欲は感じるが、面白いとは言い切れない。

この世界観を活かすとしても、もう少しミステリの醍醐味を味わいたいのだが。

読了日:2011.12.8
★★★☆☆

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2011年12月10日

ruru (20:11)

カテゴリ:国内ミステリー有栖川 有栖

『闇の喇叭』有栖川 有栖

あの戦争によって日本は北と南に分断された。 様々な統制の中、探偵が禁止された南の日本。 名探偵の両親を持つ女子高校生空閑純は、奥多岐野でひっそりと暮らしていた。 そんな片田舎で突然起こった殺人事件。 被害者の正体もわからず、北のスパイかと疑われる。 純と父親の誠は、謎を解こうとこっそり探偵行為を行うのだが・・。

舞台はもう1つの日本。
戦後北と南に分断され、厳しい統制が行われているという設定。

戦後のパラレルワールドという世界観はともかく、北海道が所謂"北"という扱いで軍事国家的な位置づけなのだが良いのだろうか・・。
自分が北海道の人だったらあまり面白くないかも、と感じたのだが。

要は様々な規制があり、敵国がある世界観が重要なのだろう。
また、こうした世界になっていたかもしれないという作者の思いも反映されているのかもしれない。

ミステリの中ではここぞとばかりに脚光を浴びる探偵が、隠れて行動しなければならない日陰の存在として描かれているのがミソか。

女子高生が主人公のため会話のやり取りに青さを感じたり、事件の真相にそれほど深みがなかったりとあまり面白い小説だとは思わなかったが、色々なパターンへの作者の挑戦心は強く感じた。
シリーズ化するほど人気があるのが不思議だが、続編も図書館で予約してあるので一応読むつもり。
変わった世界観がもっと活かされた作品になっていれば良いのだが。

読了日:2011.11
★★★☆☆

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2011年12月 9日

ruru (20:31)

カテゴリ:国内ミステリー有栖川 有栖

『刑事のまなざし』薬丸 岳

娘の事件をきっかけに少年鑑別所の法務技官から転職して刑事になった夏目。 人の奥底を覗き込むような刑事のまなざしが紐解いていく様々な事件ー。 子持ちの女の内縁の夫が焼け死んだ『オムライス』、前科を持つ男の身近で起きた殺人事件『黒い履歴』、一人息子を失いホームレスとなった男の仲間が殺された『ハートレス』、ある殺人事件に関与が疑われる女子高生の心の奥『傷跡』、男運の悪い女は何故殺されたのか『プライド』、息子を疑いながらもぶつかることの出来ない父親『休日』、10年前の通り魔事件の真相は・・『刑事のまなざし』7短編。

薬丸さんの連作短編集。
一言で言って巧い。
淡々とした文章も良いし、何よりも心理描写に長けている。

薬丸さんの作品は常に現実の事件をモチーフに取り入れているので、生臭さがあって感情が揺さぶられやすい。
重いテーマを選び、人間心理の暗部をさらそうというという挑戦の中にえぐみがあるものの、鼻につくことなく自然と小説に溶け込んでいるのでつい読み込んでしまうのが憎いところ。

最初の『オムライス』に激しい衝撃、徐々に明かされていく夏目刑事の過去にまた衝撃・・と落ち着いては読めない一冊。
様々な人生の中に浮かび上がる暗い人間心理を静かに堪能。
重くて暗いが読み応えは十分。

読了日:2011.11
★★★★☆

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2011年12月 8日

ruru (20:36)

カテゴリ:国内ミステリー薬丸 岳

『トッカン―特別国税徴収官―』高殿 円

悪質な税金滞納者のみを相手にする特別国税徴収官。 若手税務官のぐー子は、有能な特別国税徴収官鏡の指導の下様々な事案に立ち向かいながら経験を積む日々を送っている。 滞納者たちは一癖も二癖もあって税金徴収は思うように進まずー。

トッカンこと特別国税徴収官を題材にした話。
査察官の"マルサ"にはスポットが当たりやすいが、徴収官を主人公にしたところが面白い。

貧しくてどうしても税金が払えない者もいれば、贅沢な暮らしを送りながら払う気のない者もいる。
また、思惑あって支払わない者も・・。

再三の通知を無視し続ける税金滞納者たちの家へ押しかけて差し押さえようというのだから、騒動が起こらないはずがない。
税金滞納者たちとの駆け引きを笑いあり涙ありに、また税務署内の人間模様なども軽妙なタッチで描かれている。

ドラマティック過ぎたりノリが軽いところはどうも苦手だが、税金を軸に語られる様々な人生や主人公ぐー子の成長はそれなりに内容があって読ませてくれるし、文章も読みやすいのですらすら進んだ。

軽いエンタメ小説ではあるが、予想以上に面白かった。
特別国税徴収官に興味を持て、さわりだけでも理解ができたのは良かったのではないだろうか。

読了日:2011.11
★★★☆☆

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2011年12月 7日

ruru (14:36)

カテゴリ:国内小説一般その他の作家(一般)

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