2012年3月アーカイブ

『見知らぬ場所』ジュンパ ラヒリ

母亡き後世界を旅するようになるが、新たなパートナーを見つけたことを娘に言い出せない父親。 父を引き取って暮らさなくてはいけないと考えると気が重い娘。 父の訪問は二人の距離間を縮めることができるのか・・。『見知らぬ場所』他5編。

二つの異なるベンガル人家庭。
家族で知り合った少年カウシクと少女ヘーマ。
長い時を経て繋がりあう二人の行方は・・。『ヘーマとカウシク』

以前読んだ『停電の夜に』が良かったのでまたジュンパ ラヒリ。

第一部は短編5編、第二部は『ヘーマとカウシク』シリーズ3編。

作者自身がそうであるように、主人公たちは皆インドからアメリカへ渡ったベンガル人である。
異国で築かれる特別なコミュニティ、アメリカに住みながらも保たれるベンガル式の作法やしつけ・・舞台はアメリカだが、ストーリーは移民者ならではのものとなっている。

幼い頃移住したりアメリカで生まれた子供たちは、外のアメリカ世界と家庭内のベンガル世界に挟まれて複雑な立場にある。
両親たちの世代は親の決めた相手と見合い結婚をするのが当然だったが、二世たちはそれぞれが恋愛をし、人種を超えた結婚をしていく。
舞台もアメリカ、インド、ヨーロッパと世界を飛び回る国際人たちだ。

故に起こる親との確執や葛藤などが大きなテーマとなっている。

繊細な心理描写が巧みで感心させられる。
本当に巧い小説家だと思う。

今後もベンガル人のみを描いていくのだろうか。
そろそろ異なる題材にチャレンジしてみて欲しいが、世界観が壊れるのも怖い気がして複雑な心境でもある。

読了日:2012.3.26
★★★★★

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2012年3月29日

ruru (20:52)

カテゴリ:海外小説一般ジュンパ ラヒリ

『聞く力―心をひらく35のヒント』阿川 佐和子

阿川佐和子流のコミュニケーション、インタビュー術。

数々のインタビューをこなしてきた阿川さんなりのやり方をおもしろおかしくまとめた一冊である。

話が井戸端会議のようにあちらこちらに脱線しながら進むのだが、とても読みやすく目の前でお話をしているイメージが沸く程近くに感じることができる。
また、著名人がたくさん登場するのもわかりやすく面白い。

一番印象的なのは「質問は1つだけ用意する」。
あれこれとシミュレーションして出かけていってもその通りには進まないもの。
予定通りに進めようとそわそわと上の空になってしまうよりも、集中して話を聞き、その場で質問していくようにする方が上手くいくというのだ。

確かに、相手が自分の思うような受け答えをするとは限らず、準備がなければ精神は研ぎ澄まされそうだ。
最初はかなり不安だと思うが。

あとは相づちや間の取り方、相手への気遣いなど。
理屈ではわかっているような気になっているが、実際に1000人近くのインタビューを行った人の言葉で告げられると説得力が増す。

インタビューなどする機会はない、という一般人でも、初対面の人とのコミュニケーションなどに役立てるだろう。
すらすらとすぐに読めるので通勤時間に読み終わる本。

読了日:2012.3.
★★★☆☆

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2012年3月28日

ruru (20:37)

カテゴリ:ビジネス・自己啓発

『夕陽の梨―五代英雄伝』仁木 英之

奴婢である朱温は山の中に隠棲する男を師と仰ぎ、密かに武術と兵法を学ぶ。 黄巣の乱に参戦した朱温は、目覚しい活躍を遂げてたちまち幹部へとのし上がっていく。 一方で愛する人々を失い、悩み苦しみながらも朱温は戦うことにまい進していくのだった。

五代後梁の初代皇帝朱全忠の半生を描いた歴史小説。

朱温を参戦へと向かわせた境遇、連戦での手柄と喪失感・・幼い頃から戦で認められて居場所を見つけるまでの若かりし頃を丁寧に小説化している。
どうやら『朱温』という別の作品では一生を追っているらしいが、こちらではまだまだ前半というところで終わってしまうので拍子抜けな印象がある。
しかし、やはり皇帝に上り詰めるところまで一気に読みたいものだ。

仁木さんは文体が軽いので、歴史小説と気負わずに気軽に読めるのが良いと思う。
人名は覚えにくく何度も振りかってしまったが、すぐに読み終わる。

五代十国時代にあまり目を向けたことがなかったので、少し世界が開けた気がする。
三国志や始皇帝だけではない、中国史に興味がある人は読んでみては。


読了日:2012.3.
★★★☆☆

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2012年3月27日

ruru (20:52)

カテゴリ:国内小説一般仁木 英之

『ねたあとに』長嶋 有

真夏の山荘には、小説家コモローの仲間たちが集い、夜な夜なオリジナルのゲームで遊ぶ。 麻雀牌による"ケイバ"、サイコロを振って恋人を作る"顔"など。 メンバーが入れ替わりながら繰り広げられる大人の夜のお遊び。

山荘の持ち主はコモローの父ヤツオ。
夏になるとコモローの友人やヤツオの知人たちが避暑のために集まってくる。

ボロボロの建物、湿気との戦い、奇妙なルール、虫、虫、虫・・。
この山荘を楽しめる選ばれし人々の中の一人、ウェブデザイナー・クロコの視点で物語は進む。

クロコは女性だが、コモローとは何もない。
ここに集うどの男女の間にも何もない。
巨乳のアッコさんがいてもコモローは虫を追う。
クロコがちょっとだけ憧れるドラマー・ジョーさんが来ても何も起こらない。
年齢も性別も職業も関係なく皆山荘でただひたすらにダラダラと過ごすのである。

昼間は好き勝手に仕事をしたり遊びに出たりし、夜は皆でヤツオとコモローの弟が作ったオリジナルゲームに興じるのだが、このゲームがかなりくだらない。
いい年した大人がすごろくに夢中になるようなレベルだ。

しかし、まあそれも楽しいかもしれないと思えてくるから不思議。
背表紙には「大人の青春小説」とあるが、山荘で童心に返って短い避暑を満喫し、山を降りてそれぞれの仕事へ戻る。
今を楽しんだとしても戻らねばならない場所があるところが"大人"の所以か。

内容はあまりない。
どんな話かと聞かれたら「山荘で遊んでいるだけ」としか言いようがない。

紅茶に落ちた蛾を眺めたり、雨にやられそうになって布団を急いでしまったり、ダイヤルアップ接続でイライラとネットをしたり・・・そして夜には必ずゲームをする。

人間関係も進展なく、何か大きなことも起こらず、それでいて月日はどんどん過ぎていくのだ。
あまりにも淡々としているので、そんなはずはないだろうと半分を越えても思っていたが、最後まで読み終わっても何も内容がなかった。

ふわふわとした山荘でのひと時がただ綴られていくだけだ。
くだらないなあと思いながら少しうらやましくもなる何ともいえない小説。

この著者の作品は初めて読んだが、何となく他の作家にはないような視点と空気感を持っているのが良い。
一方で文章が説明臭くて面倒な人ではないかと感じたが。

芥川賞やら大江健三郎賞やらと堅い賞を受賞しているのも興味深いので、是非違う作品も読んでみたい。

読了日:2012.3.
★★★☆☆

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2012年3月26日

ruru (20:20)

カテゴリ:国内小説一般長嶋 有

『最終目的地』ピーター キャメロン

南米ウルグアイの人里離れた村で自殺した小説家の妻、愛人とその子供、作家の兄と恋人である青年が静かな暮らしを送っていた。 そこへ作家の伝記を書きたいとアメリカから大学院生オマーが訊ねて来る。 彼の訪問は彼らの暮らしに波紋を投げかけ、またオマー自身も自分を見つめなおす機会を持つこととなる。

時が止まったような暮らしを続ける小説家ユルス縁の人々。
妻キャロライン、愛人アーデンと娘ポーシャ、兄アダムとその恋人ピート。

それぞれが複雑な思いを押し隠しながら、依存し合い、距離を保ちながら排他的な生活を続けていた。
まるで現実から逃げるように時を止めて。

誰もが自分の人生をあきらめかけていたに違いない。
オマーが登場することで、それぞれが心に秘めていた願望や自分自身に気付かされ、少しずつ変化が起こる。

オマー自身も将来に不安ばかりの大学院生でしかなかったが、彼らに触発されて自分の道を見つけていく。

人間関係や人物描写、繊細な心理描写が巧みだ。
人種も背景も性格も全く異なるバラエティ豊かな登場人物たちが魅力的。
リアリティとは薄い膜一枚で遮断されているような静かな物語として始まるが、登場人物それぞれの人生に引き込まれていくうちに、現実的な終結に向かっていく。

人がたどり着く最終目的地はどこなのか。
それぞれの幸せの形を模索していく人生の物語。

洒落たアダムのセリフで気に入ったところ。

「しあわせなときは、美しいものを買うことが大事だ。このタイを見ると」~「わしにもしあわせだった時代があったことを思い出す」
「わしはたしかにしあわせだった。さもなければ、こんな美しいタイを買うはずがない」

老いを感じさせる少し寂しい場面でのセリフだが、アダムの高貴な心が素敵だと感じた箇所だ。

読了日:2012.3.
★★★★☆

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2012年3月25日

ruru (20:19)

カテゴリ:海外小説一般その他の作家(海外小説一般)

『夜中に犬に起こった奇妙な事件』マーク ハッドン

自閉症の少年クリストファーは、お母さんを病気で亡くしてお父さんと二人暮らし。 色々人とは違うところがあるけれど、数学や物理は得意で将来の夢は宇宙飛行士だ。 ある夜隣家の犬ウエリントンが誰かに殺された。 クリストファーは犯人探しを始めるが、思わぬ真実を知ることとなり・・。

自閉症の少年クリストファーが主人公。
犬殺しの犯人探しでミステリのように始まるが、内容は色々な困難にぶつかりながらも前に進もうとする少年の成長物語となっている。

視点がクリストファーなので細かいところがあったり不思議なところがあったり。
しかし読みにくさはなく感情移入してスイスイ読める。

クリストファーの混乱、お父さんやお母さんの心の痛みや愛情などが繊細な描写で描かれており、大人も子供も何かを感じることができる作品。

自閉症の少年の視点で最後まで書き上げるのは難しかっただろう。
読んでいる方は「なるほどこんな風に考えるのか」とただ受け入れながら進むだけだが、創り上げる力は大変なものだったと想像する。
高い評価を受けているのがよくわかる。

読了日:2012.3.
★★★★☆

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2012年3月24日

ruru (20:01)

カテゴリ:海外小説一般その他の作家(海外小説一般)

『空山』帚木 蓬生

草野市議会議員となった俊子は、亡き恋人達士との思い出を辿り菅生連山へ5年ぶりに登る。 そこで見たものはあの頃と変わらない籠り桜と無残な姿をさらすごみ処理センター建設地だった。 俊子と真紀、慎一らは違法性を感じ取り、美しい山を取り戻す運動を始める。

『空夜』から5年。
達士を亡くした俊子は、倒れた夫の看病、会社・ブティック経営に加え市議会議員の仕事に奔走していた。
夢中で走り続けた5年間を振り返り、達士に導かれるようにして出かけた菅生連山でごみ処理センター建設地を目撃することとなる。

建設地は真紀・慎一が住む五条村の山向こう上山町。
他行政地区とは言え、水源を山に持つ五条村にも、ごみ処理能力がパンク寸前の草野市にも関係のある施設であることがわかってくる。

自分たちが出すごみは最終的にどこへ行くのか?
住民たちの無知、行政の無責任さ、処分場を巡る利権などごみ問題を提起した作品。

自分自身、地元のごみの焼却灰の最終処分が県外であったことを最近知ったばかりだ。
(しかも放射能ごみ騒動によって知ったというお粗末さ)

作品内ではただ反対運動を描くのではなく、根本的な問題に踏み込み、住民たちがどう答えを出していくのか導いていく。
ガチガチの社会派小説というわけでもなく、その後の真紀と慎一の恋愛や俊子の心情なども描かれソフトな印象。

前作同様恋愛部分にはどうも共感できないものがあったが、前回大人の恋愛の舞台とした美しい里山とごみ問題を組み合わせて全く趣の異なる二作目へと繋げる力量はさすが帚木さんだと思った。
春の籠り桜で始まり、秋の櫨の紅葉で終わる美しい情景描写も素晴らしい。

読了日:2012.3.22
★★★☆☆

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2012年3月23日

ruru (10:01)

カテゴリ:国内小説一般帚木 蓬生(一般)

『雷桜』宇江佐 真理

瀬田山のふもと、瀬田村で庄屋の娘遊がさらわれた。 消息不明のまま月日は経ち、15年後に遊は狼少女として帰還する。 御三卿清水家に仕える兄の助次郎は、療養のためにと当主斉道を瀬田村へと誘う。 将軍の息子斉道と遊の間には愛が芽生えるが・・・。

映画化もした当作品。
宇江佐さんの作品の中で読みこぼしていたので今更読んだ。

岩本藩と島中藩は瀬田山の支配を巡って対立している。
庄屋の家も巻き込まれ、そのあてつけとして遊はさらわれるが、さらった男は山の中で遊を育てていた。

家族は悲観に暮れるが、隣村で遊らしき娘と兄が会っても連れ戻さなかったり、自分で戻るまで待とう、となったりなんだか解せない。
遊の"狼少女"ぶりも中途半端な気がするし、育て親の姿や山の中での生活がはっきりしないのももやもやした。

しかし雷桜という響きや、不思議な木の存在、山の中の千畳敷などの神秘的な景色や遊という特殊な女性の潔い生き方などは美しい。

いまいちなのは人情物の方が好きだという好みの問題か・・。
それほど心には残らず。

読了日:2012.3.
★★★☆☆

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2012年3月15日

ruru (20:17)

カテゴリ:国内小説一般宇江佐 真理

『消えた宿泊名簿―ホテルが語る戦争の記憶』山口 由美

富士屋ホテル、強羅ホテル、金谷ホテル、奈良ホテルなどなど。
現在も人気のクラシックホテルの視点から太平洋戦争前後の歴史を辿った一冊。

著者の曽祖父は、箱根富士屋ホテルの創業者・山口仙之助とのこと。
これを読めば一族が総理大臣や各国幹部、著名人らと華やかな交流を持っていたことがわかる。

クラシックホテルは今でも一流の社交場として、また人目を避けた密談の場として重要な役割を果たしていると思うが、戦争という非常時においても同様であったようだ。
この本ではホテルに残された資料や当時のホテルマンたちの証言などから歴史が動いた瞬間を切り取っている。

開戦前の日米交渉、戦時中の外国人たちのホテル暮らし、密かに行われていた終戦工作、戦後の接収ホテルの姿など昭和という時代のうねりの要所要所を感じることができた。

ホテルという舞台で戦争を考えたことはなかったので面白いと思う。
一族でなければ書けないような内容なのも興味深い。

緊迫する交渉の舞台となっていたことよりも、戦時中とは思えないようなインターナショナルな交流や豊かな戦後の暮らしなどに驚きを感じる。
上海社交界の様子など、生死の境を彷徨う戦地と同じ日・同じ時間のことなのかと考えると寒々しさを感じるが、これが現実かという納得もある。

淡々と事実を述べている抑揚のない本なのでのめりこんで一気読みとはいかなかったが、クラシックホテルや歴史に興味があれば読んでみて損はない。

読了日:2012.3.
★★★☆☆


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2012年3月14日

ruru (14:15)

カテゴリ:社会・ルポ・ノンフィクション

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