2012年8月アーカイブ

『大公女殿下(プリンセス)に捧げる密室』芦辺拓

ヴェルデンツ大公国を訪れた森江春策。
過去の事件で大公とも関わりがあった森江は派手な出迎えを受けるが、到着早々殺人事件に出くわす。
事件の容疑者は自分をヴェルデンツへと招いた鞠岡だったー。

森江春策シリーズの一冊。
飛び飛びに読んでいるのでよくわからないが、登場人物の鞠岡などは過去の作品の関係者だったらしい。
続けてきちんと読んでいる人には繋がる楽しさがあるかもしれない。

コテコテの大阪弁の弁護士兼探偵が活躍する舞台はヨーロッパのお城。
架空の国の設定や不安定な大公たちの人物像などにすぐに馴染めずやや引っかかりを感じながら読み進める。

居城での殺人事件、ビジネスマンの事故死、古城での殺人事件と次々事件が起こり、森江が見事解決していくのだがなんだかよく分からないまま進み最後の解決場面まで話が見えてこない。

古めかしい設定の必要性、ヴェルデンツと日本の関係、本格のようなライトミステリのようなテイストの混在など混乱することが多かった。

それなりに楽しめたし、作者が色々と盛り込んだことには敬意を表するが、何となくまとまりがなく全体的にもやもやした作品だったように思う。

読了日:2012.8.30
★★★☆☆

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2012年8月31日

ruru (08:19)

カテゴリ:国内ミステリー芦辺 拓

『格安イタリア生活―憧れの欧州で暮らせるノウハウ満載! 』御法川 裕三

イタリアに移住した著者によるイタリア生活の実情。

立ち読みしたら面白そうだったのでそのまま読んだが、イタリア移住など全く考えていないのでただの読み物としての感想となる。
実際に移住を考えている人にこそ役立ちそうだが、どれほど役立つ情報なのかは判断がつかない。

引越し準備から生活してみての問題点や感想など、実体験に基づいているので説得力はある。
もっとイタリア生活の楽しさが伝わってくると良かったのだが、手続き的な話が多いのでやはり実用向けか。

イタリアの悪しき習慣"ネーロ"は知らなかった。
契約書などを交わさない代わりに貸主・雇用主は税金を逃れられ、借主や雇い人は得ができるというシステムらしい。
金銭的には悪くないシステムが、不法滞在になったりトラブル対応ができなかったり問題が多いらしく利用はしない方が良さそう。

物価が高く暮らしにくそうなイメージが益々強くなったが、想像もしていなかったイタリア生活の実情を垣間見ることができたのは面白かったと思う。


読了日:2012.8.
★★★★☆

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ruru (07:42)

カテゴリ:エッセイ・随筆・対談

『個人美術館の愉しみ』赤瀬川原平

個人美術館とは、一人の作家だけの美術館または一人のコレクターによる美術館のこと。
ここでは日本全国の個人美術館から48館を紹介している。

ただの案内本ではなく著者の探訪記のような作り。
かなり私感に基づいて書かれているので好みは分かれるかもしれないが、写真などもあって文章は読みやすい。

マイナーな美術館を扱っているので知らないところもあって面白かった。

自分が行ったことがあるのは10館のみだった。
地方だと行きづらそうなところもあったが、せめて東京近郊は尋ねておきたいところ。

ちなみに私のオススメは庭も素晴らしい川村記念美術館、田中の世界に浸れる田中彫刻美術館。

読了日:2012.8.
★★★★☆

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2012年8月30日

ruru (21:24)

カテゴリ:趣味系

『ぼくのマンガ人生』手塚 治虫

漫画家手塚治虫が漫画人生を振り返る。

漫画を読み聞かせしてくれた母、映画好きの父の影響。
漫画を通して出来た友人たちとのエピソード。
戦争体験や医学部での経験がもたらした作品への影響などなど・・。

子どもの頃からの体験や、子どもたちに伝えたいメッセージなどがまとまっているのだが、ところどころ登場人物であるご友人や妹さんなどが寄せた文章もあるのが面白い。

また、何故か漫画『ゴッドファーザーの息子』全編が納められている。
既読だったので、初出というわけでなくたまたまこの自伝に合うと考えられて入れられたのかもしれない。

制作の裏話なども読めるので好きな人なら楽しめる。


読了日:2012.8.
★★★★☆

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ruru (00:18)

カテゴリ:自伝・伝記

『泥流地帯』三浦 綾子

父を亡くし、働きに出た母を想いながら祖父母と暮らす拓一・耕作兄弟。
貧しさの中互いを思いやり正しくあろうと懸命に生きる家族を、十勝岳から流れ出た泥流が容赦なく襲うー。

大正15年に起きた十勝岳の噴火によって流れ出た泥流は、上富良野の開拓地の村を押し流し、多くの死者を出したという。
この災害をテーマに、真面目に生きることの意味と人生の試練の意味を問いかける作品となっている。

貧しい水のみ百姓であっても、懸命に働き人のためにあろうとする祖父や兄拓一、友人の父。
そして子どもたちのことを暖かく見守ってくれる先生との出会い。
耕作は身近な善き人たちから多くのことを学びながらまっすぐに成長していく。

頭の良い耕作を上の学校へ行かせたいと願う家族、家族のために断念する耕作。
手に職をつけようと街に出たまま病気で帰れない母、呼び戻せない家族。
売られてしまった思い人福子を取り返そうと金を貯める拓一、自分の身の上を受け入れ諦めながら生きる福子。
大切な人を思い合う気持ちが切ないばかりだ。

貧しさと苦難にあっても、前を向いて生きる人々を襲ったのは十勝岳の泥流だった。
あっという間に流され死んでいった人々。
自分たちを律し、荒地を耕し開墾してきた数十年があっという間に泥の下へ・・。

行いの素晴らしい人々があっけなく死んでいく姿と対比して、ここでは他人を苦しめてきた人間たちが何事もなく生き残る姿が描かれている。
姉富を苛め抜いた姑は葬儀の場で「心がけがいいもんは助かるよ。」という心無い言葉を吐き、悪しき存在の象徴であった料理屋の主人深城は、被災地で要領よく金儲けを始める。

そんな彼らを見て真面目に生きることへの疑問を感じる耕作に兄拓一がかける言葉とは・・。

三浦綾子なのでキリスト教のテーマに即しているが、表立ってはあまり出てこない。
人はどう生きるべきなのか、運命を受け入れることの意味を考えさせられる。
他人がどうであろうと、また大きな力が容赦なく襲ってこようとも自分が正しいと思える道を進まねばならないのだという強いメッセージを感じる。

物語としては、理不尽なことばかりが続きやるせなさが胸にこみ上げてきて平静ではいられないのだが、それでも著者が訴えたいことが心に響いてくるのでぐっとこらえて読むしかない。

続編があるのですぐにでも読みたいのだが、そちらでも苦難の連続らしいので想像しただけで心が重くなり躊躇しているところだ。

読了日:2012.8.28
★★★★★

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ruru (00:06)

カテゴリ:国内小説一般三浦 綾子

『千年樹』荻原 浩

死んだ国司の子の口から零れ落ちたくすの実。
千年の時を経て、土地のシンボルとなったくすの木の下では様々な人生が行き交うー。
死を考えた雅也の前に現れた子ども、根元の穴から出てきた戦時中の子どものおもちゃ、子どもを授かった夫婦と貧しさのために殺さなくてはならない母、秘密の文通や隠し場所に使われる洞・・時代を交差しながらくすの木が見つめる人間模様を描いた連作短編集。

くすの木という存在を軸に繰り広げられる人生。
時代は時に遡り、現代に戻り、また遡り・・。

樹齢千年の木が見守ってきた人間の営みを厳かに描いているのでは、というイメージで読み始めたが、どちらかというと憎しみや悲しみが取り付いているような恐ろしさを感じる話ばかりでやや暗いテイストの作品だった。

過去と現代の登場人物たちの対比が巧く読みやすい。
血なまぐささが強いので、もう少し綺麗なストーリーの方が好みで満足できたと思う。

読了日:2012.8.
★★★★☆

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2012年8月29日

ruru (23:01)

カテゴリ:国内小説一般荻原 浩(一般)

『オロロ畑でつかまえて』荻原 浩

過疎化に悩む牛穴村青年会は、村おこしを倒産寸前の広告会社へ依頼する。
アル中のクリエイティブディレクター・杉山が考えたとんでもないキャンペーンとは・・。

荻原浩デビュー作にして小説すばる新人賞を受賞した作品。

牛穴村は、秘境とも言えるような田舎村。
東京の大学を出た旅館の跡取り慎一を中心とした青年会も、メンバーが減り続ける一方である。

東京の広告代理店へ村おこしを依頼することに決めたものの、引き受けてくれたのは倒産寸前のユニバーサル広告社。

人は良いが物を知らない青年たちと才能はあるが我が強いディレクターたちがタッグを組んで繰り広げるどたばた劇。

狙い定めた人物像と適当な展開に引っかかるものはあるが、テンポが良くユーモアたっぷりで楽しめる。
軽い小説なので気楽な娯楽小説としてはまずまず。

読了日:2012.8.
★★★★☆

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ruru (21:54)

カテゴリ:国内小説一般荻原 浩(一般)

『さよなら、そしてこんにちは』荻原 浩

葬儀会社に勤める陽介は、笑い上戸で泣き上戸。
亡くなった人を見送りながらも、もうすぐ生まれる娘のことを考えると笑いが止まらない。
病院の霊安室と分娩室を行き来しながら感じる人の生。『さよなら、そしてこんにちは』他7編から成る短編集。

ユーモアがありながらほろっとくる荻原テイストの短編集。

商売上人の死に感情移入しないよう心がけている陽介だが、こらえ切れない時もある。
はたまた葬儀の進行をしながら、生まれてくる娘を思ってにやけてしまうことも。

生と死を身近で感じる男の喜びと悲しみの対比が良かった。
軽いトーンで進み最後にぐっと締める流れが巧い。


リストラされた父に不登校の息子。
家族揃って移住した先は想像以上のど田舎で・・。『ビューティフルライフ』

頼りない父にメルヘンな母。
今時女子高生の姉に不登校の自分。

どたばた田舎暮らしには、家族の思いやりが詰まっている。
すべての物事はコインの裏と表。
リスタートで失ったものと得たもの。
笑ってしんみりの温かな物語だった。


スーパーの食品仕入れを担当する孝司は、売り上げに大きく影響する主婦向け番組のチェックに余念がない。
テレビで取り上げられる食品の情報を事前に知りたい!孝司の取った行動は・・。『スーパーマンの憂鬱』

テレビの情報に左右される仕入れに振り回されるスーパーの男・スーパーマン。
毎日変わる情報に飛びつく消費者への皮肉とスーパー仕入れの苦労がユーモアたっぷりに描かれている。
笑いの中に社会人としての共感と同情を感じる話で面白かった。


子供向け番組ナイトレンジャーの俳優にはまる主婦由美子。
姑の目を気にして、放映時間前はいつもハラハラ。
熱い思いは募り、とうとう後楽園遊園地へ出かけた由美子が見たものは・・。『美獣戦隊ナイトレンジャー』

主婦だってときめきが欲しいとテレビに熱視線を送っていた由美子が、本人会いたさに行動を起こす。
夢と現実、主婦の純情さと逞しさが微笑ましい。


寿司職人辰五郎は腕に自信はあるのだが店はちっとも流行らない。
常連客は取材は拒否していると思っているが、実はただ来ないだけなのだ。
ところがある夜グルメ評論家らしき男が店に来て・・。『寿し辰のいちばん長い日』

頑固だがマスコミに弱い辰五郎。
つい調子に乗ってしまう人間の浅はかさが巧く表現されているが、『スーパーマンの憂鬱』と似ている印象があったのが残念。


アマチュアに毛が生えた程度の料理研究家美也子。
進まない原稿、初めてのテレビ局取材にインタビュー。
焦る美也子のめまぐるしい一日。『スローライフ』

スローライフの流行に乗って売れ始めた料理研究家が、とてもスローとは思えない忙しさに振り回される。
切迫した精神状態を笑いの中に描いていて、単純におかしい。


重福寺の住職覚念は、妻と娘にクリスマス・パーティーをしたいと迫られる。
意を決してクリスマスグッズを買いに出るが、この姿を檀家や恩師の慈海老師に知られたら・・。『重福寺のメリークリスマス』

家族のために一生懸命な覚念が微笑ましい。
仕事の立場と家族の中での立場。
葛藤する男の奮闘が面白おかしく描かれている。
宗派など愛があれば関係ない!


どれも人間の悲喜こもごもが描かれていて面白かった。
ただマスコミに踊らされるという点で似たような印象の作品が多かったので完全にパターンが分かれていたら尚楽しめたかもしれない。

読了日:2012.8.22
★★★★☆

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2012年8月25日

ruru (10:53)

カテゴリ:国内小説一般荻原 浩(一般)

『ぬるい男と浮いてる女』平 安寿子

開業医になるために医者の息子と結婚した貴子。
頼りない夫は悪友のアドバイスの元センスの悪いカフェをオープンし、出来の悪い甥を店長に据える。
保証人にされた貴子は経営をハラハラと見守るが案の定・・。『長い目で見て』他6篇から成る短編集。

ちょっとクセのある男女6人の人生色々。
タイトルが面白そうだったのでこの著者の作品を初めて読んでみた。

「こんな人いるいる!」と読者が共感を感じることを求めて書かれているのだろうが、自分としてはあまりピンとくる作品がなかった。

逞しい中年女と頼りなくマイペースな若い男というのが基本の人物像のようだ。

しかし、女性は笑える逞しさというよりは自分勝手な浅ましさの方が強く、男性は草食男子という言葉から想像して人物像を練っただけのようなとことん覇気のない男ばかりでイライラさせられる。

底抜けの逞しさだったり、どこか憎めない愛情ある頼りなさが表現されていれば良かったと思う。

こういった人間にスポットを当てた作品は、共感がなければはまれない。
人物像が自分自身や身近な人が当てはまるように感じられるか、そうでなければ突き抜けた意外性が欲しい。

軽い本なのですぐに読み終わるが、読後あまり残るものがなかった。
もしかすると著者の年齢にあった世代の人が読むと納得できるのかもしれない。

読了日:2012.8.
★★★☆☆

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ruru (10:24)

カテゴリ:国内小説一般

『「成功」と「失敗」の法則』稲盛 和夫

稲盛和夫の人生哲学。


・人格=性格+哲学

・昨日よりましな今日、今日よりよき明日であろうと、日々誠実に努め続ける。

・儲かるかどうかではなく人間として正しいかどうか。


など、在家得度を受けているだけあって仏教的な言葉が並ぶ。

薄い本で文章も平易なのですぐに読み終わるが、やはりこれだけの人の言葉は含蓄があり、心にすっと入ってくる。

肩書きコンサルタントの実のない本を何冊も読むのなら、稲盛さんの本を何度も読んだ方が良い。

読了日:2012.8.
★★★★★

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2012年8月24日

ruru (08:21)

カテゴリ:ビジネス・自己啓発

『国銅上・下』帚木 蓬生

時は天平年間、銅山で労役に就く少年国人がいた。 過酷な労働に耐えながら、暇を見ては山に住む僧景信から文字を習い教えを受ける日々。
やがて大仏造営の人足として都に登った国人は、各地から集まった仲間や身分を越えた友情を得、通う女性もできる。
数年の月日を経て大仏は完成。
その目で開眼供養絵を見た国人は、任期が明けて国へ帰れることとなるが・・。

奈良の大仏造営を一人足の視点で描いた長編小説。

山中の銅採掘現場から都の大仏造営の現場へ。
誠実な少年が、様々な人々との出会いと別れを経験しながら成長していく。

労働は過酷で常に死と隣り合わせの生活だ。
親しい人が次々に倒れていく。
任期が明けても無事に国許へ帰れるのは一握りの人間のみ。

人を救う大仏のために人命が軽んじられるという矛盾。
多くの人々の力で造り上げられたにも関わらず屋内にあって観ることができない大仏と景信が一人で山肌に彫り続けた石仏。

出会った人々の生き方、仏の教えが鮮やかに交差して国人を導く。

国人ができすぎであったり綺麗にまとまり過ぎているのはやや面白みに欠けるが、悲壮な場面でも清清しく読みきることができるので丁度良いのかもしれない。

大仏建立を国の歴史や権力者の視点ではなく、最下層の人足を主役にしてみるとどうなるか。
帚木さんらしいヒューマニズムに溢れた大作になっている。

読了日:2012.8.
★★★★☆

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ruru (01:56)

カテゴリ:国内小説一般帚木 蓬生(一般)

『証拠改竄 特捜検事の犯罪』朝日新聞取材班

郵便料金の不正に絡み厚生労働省の村木さんが不当逮捕された事件。
シナリオありきで進む中であった検察の証拠改竄という朝日新聞スクープの裏側をまとめた一冊である。

この事件の発端は、障害者団体向け郵便割引の悪用発覚である。
正直言ってそんな制度は知らなかったし、DM発送に悪用しようという思考にも損害額の大きさにも驚いたものだ。

その後国会議員の関与が取り沙汰され、厚生労働省の役人が逮捕されていくのを見てどうなっているんだと呆れていたら、それだけでは終わらなかった!
不当逮捕に検察の犯罪・・。

検察の強引な取調べや誘導があるだろうと漠然とは思っていたが、完全なる作文や証拠の改竄が白日の下にさらされるとなると信用失墜もいいところ。
そもそも信用があったかどうかも微妙だが、少なくとも必要な機関だと認識していたことさえも考えてしまう。

この本は、取材に当たった朝日新聞の検察担当記者たちの奮闘が書かれている。
どこか検察に申し訳なく感じているようなニュアンスもあり、記者と検察の距離感に馴れ合いを感じて違和感もあるが、真実を追う姿にはジャーナリスト魂を感じる。

本筋ではないが、板橋記者の蔵書のほとんどがノンフィクションということが一番の衝撃だったかもしれない。
自分の蔵書はほとんどが実用書や小説なので、やはり記者は現実の社会に一番興味があるのだなあという納得と感慨があった。

読了日:2012.8.15
★★★★☆

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ruru (00:56)

カテゴリ:社会・ルポ・ノンフィクション

『水死』大江 健三郎

小説家の長江古義人は父の水死を題材に小説を書くつもりで故郷の四国の森を訪れる。
母が遺した赤革のトランクにはその資料が詰まっているはずだったのだがいざ手にしてみると・・。 小説化を断念して東京へ戻った古義人だったが、妻の病気を機に再び故郷へ向かう。

久しぶりに大江健三郎を読む。

古義人のモデルは当然大江自身で、家族構成や舞台となる四国の森などの背景はある程度予備知識があればすんなりと受け入れられるのだが、それでも読んでいない作品にでも書かれていたのだろうか?と感じる"暗黙の了解"のようなものが多くて読みづらかった。

水死した父と老小説家、彼自身と障害を持つ息子との関係性。
国家と強姦。
登場人物たちの存在意義が徐々に浮き彫りになり、主題へと繋がっていく。

元々本筋を見つけるのにさ迷い歩くような作品が多いが、久しぶりに読んだせいなのか自分の感性が鈍ったのかなかなかぴんとこなかった。
最後の章になってやっと納得できたが、途中はところどころ読むのが億劫になってしまった箇所がある。
短編であればもっとすっきりと心に響いてきたのかもしれない。

読了日:2012.8.
★★★☆☆

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2012年8月18日

ruru (00:36)

カテゴリ:国内小説一般大江 健三郎

『魔性の子』小野 不由美

かつて神隠しにあったことがある高里には、彼をいじめた者は祟られるという噂があった。
教育実習で母校を訪れた広瀬は周りから浮く高里に親しみを感じて興味を持つが、噂通り高里の周りでは次々と凄惨な事件が起こる。

『十二国記』泰麒が再び蓬莱に流されていた間の話。
実はこちらの方が先に発表されたものらしい。
ホラーの類に入るらしく、『十二国記』とは一線を画す。

『十二国記』を先に読んで高里(泰麒)の状況がわかっているので内容の把握は容易いが、これだけ読んだ人はどうだったのだろう。
何が何だか分からないまま人が死んでいくように感じないだろうか。
最後突然王が出てきたりするのも違和感があったのでは。

泰麒の失われた時間を知ることができたのは面白かったが、短編程度で良かったというのが本音。
もちろんこちらが先なのでそれは無理というものだが・・。

読了日:2012.8.
★★★☆☆

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ruru (00:03)

カテゴリ:国内小説一般小野 不由美

『ネコを撮る』岩合 光昭

動物写真家岩合さんの猫写真の撮り方。
と言っても技術的なことよりも、写真を撮る上での猫との付き合い方をまとめた本。

モデルネコの探し方、機嫌のとり方、猫の習性など。
初めて知ったが、オスの方がアピールしたがるのでモデルに向いているらしい。

野良猫にいつもにらまれてしまうのはどうやら接し方が悪いらしい・・。

オールモノクロだが写真も多々あって、猫好きにはたまらないのではないだろうか。
海外の猫写真や猫科のライオンなどの写真もある。
チーターの爪とぎは何となく不思議。

自分はどちらかというと犬派だったので、岩合さんの和犬写真集を持っている。
しかしこれを読むと岩合さんは完全に猫派。
猫を愛してやまないからこそ愛情溢れる写真が撮れるのだろう。

カメラ好きはもちろんだがただの猫好きでも共感できて可愛い猫写真を楽しめる一冊。

読了日:2012.8.16
★★★★★

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2012年8月17日

ruru (10:22)

カテゴリ:趣味系

『百戦百勝―働き一両・考え五両』城山 三郎

祖父は豪農だったが父の代で持ち崩して貧しい生活をしていた春山豆二。
米屋の丁稚として上京した豆二は「働き一両・考え五両」という祖父の言葉を胸に米相場で財を成していく。

"相場の神様"山崎種二をモデルにした小説。

相場師との出会いや祖父の言葉「働き一両・考え五両」の影響で、労働の儲けだけではたかが知れていると相場の世界へ身を投じていく豆二。

米農家に生まれ米屋で汗して働くことで米の声を聞く。
絶対的な知識を持ち売り専門で米相場に打って出る豆二は、山っ気ある相場師たちの中にあってやや異色の存在だ。

海千山千の相場師たちと渡り合い、時に負け時に儲けで成功していく豆二の人生は波乱に飛んでいて面白い。

相場の世界にありながらどこか真面目な豆二だけでなく、「今日は大名明日は乞食」と浮き沈みしながらたくましく生きる相場師たちにもまた別の魅力がある。

桁外れのお嬢様で豆二の成功を支える妻冬子やひたすら労働で財を成そうとするお安の存在も大きく、物語に厚みを持たせている。

明治から昭和にかけてめまぐるしく時代が変わる中、貧農出身の少年が才覚1つで成り上がって行く姿は痛快。

山種美術館へ度々出かける身としては、美術品蒐集のくだりなども楽しい。
特にモデルを意識せずに読んだとしても、一人の男の人生物語として十分楽しめるだろう。

読了日:2012.8.
★★★★★

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2012年8月16日

ruru (11:18)

カテゴリ:国内小説一般城山 三郎

『キノコ雲に追われて―二重被爆者9人の証言』ロバート トランブル

1945年6月6日に広島で、8月9日に長崎で。
二度も原爆を体験した二重被爆者の方9人の証言を、アメリカ人ジャーナリストがまとめた一冊。
インタビューは戦後約10年経った頃に行われている。

数年前まで二重被爆というのを知らなかった。
知る機会がなかったし、考え付きもしなかったのが正直なところである。

おそらく、原爆投下後の混乱の中で電車が動いていたということがまず想像の範囲を超えていたからだと思う。
原爆の恐ろしさを知ることができる記録は多数あるが、その悲惨さ故にまさか3日の間に遠く長崎まで移動をした人々がいたとは夢にも思わなかった。

知ってみれば、たまたま長崎から広島を訪れていた人々が職場や家や家族を失い、故郷へ向かうのは必然だったと理解できる。

驚いたのは、「次は長崎だろう」と予感しながらも向かったという証言が複数あることだ。
家族に伝えて助けたい、どうせ死ぬのなら故郷で、とその時の感情は様々だが、実際に広島での体験を語ることで周囲の人を助けることもできたと聞くと救いを感じる。

淡々とした証言集となっていてアメリカ人著者の感情を垣間見ることはできない。
古い著作で数字などに大きな違いがあるようだし、証言のニュアンスなどもそのままなのかは疑問である。
しかし、当時残された記録として重要なものであることは確か。
二重被爆について書かれた本は少ないので貴重な資料の1つではあるだろう。

読了日:2012.8.
★★★★☆

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2012年8月15日

ruru (00:58)

カテゴリ:社会・ルポ・ノンフィクション

『ガラスの地球を救え―二十一世紀の君たちへ』手塚 治虫

手塚治虫が未来へ伝えたい言葉。
執筆されたエッセイと生前の講演会やインタビューなどをまとめた一冊。

手塚治虫の作品はどれもメッセージ性の高い漫画ばかりなので、漫画を読むことで色々なメッセージを受け取ってきたつもりではあるが、改めて、その源となる手塚氏の思考を文章という形で読むことができたのはとても興味深く面白かった。

手塚治虫は預言者・・というと大袈裟かもしれないが、SF漫画を通じて未来への想像を具体化させてくれた大家であることは間違いない。
素晴らしい夢の世界だけではなく、現実的で警告も含めた内容は様々な問題提起もされている。

随分昔に書かれた作品内にも、現在クローズアップされ始めた問題点が多く指摘されているところがすごいところ。

このエッセイにも自然、放射能、個人主義に差別、戦争についてなどの見解がなされているが、読めば読むほど慧眼と先見の明を持った人だったと感じるばかりだ。

情報過多について書かれた章では、情報選択のテクニックを子供たちに教えなくてはいけないと説いている。

何が必要な情報かと、ということですが、ぼくはとどのつまり、生命の尊厳を伝える情報が最も必要でかつ重要な情報だと思います。
現在の暴力非行や、親子の断絶や、生命の軽視は、子どもや若者たちがこれまで育ってきた期間に得た情報の吸収、蓄積によってもたらされた結果です。 大人たち、あるいは子どもの身のまわりや社会にくり返し行われる暴力や犯罪、享楽的な性描写などの情報が、子どもを倫理的に麻痺させてしまったことは確かです。これが十倍、百倍となって嵐のように襲う時、どうしようもない人間喪失の社会が実現してしまうでしょう。
政治的な規制もなく、自主的に、生命の尊厳と生きるということの価値を情報によって子どもたちに与える態度をとることが、ぼくたち大人の高度情報化社会に対する何よりの心構えではないかと思います。

今ほどITが発達していなかった頃の言葉である。

今回私が一番なるほど!と思ったのは差別についての章。
手塚氏がカナダで黒人女性に差別された体験を語り、

・・差別されている人間は、そのむごい痛みを知っているからこそ、逆に差別する側にはならないものだと思いこんでいたぼくは、かなり楽天的すぎたようです。
差別されたものが、今度は自分が差別できる対象を見つけようとするのは、打ち砕かれてきた自分の尊厳、誇りを何とかして無意識のうちにも回復させたいと願うからでしょう。

と書いている。

差別だけでなく、「どうして自分が嫌だと思っていたことを、立場が変わった途端に他人にするのだろう。」と思うことが大なり小なり多々あってずっと疑問だったのだが、霧が晴れるように理解できた。
なるほど自尊心の回復か、と。
そう思うと受け止め方も替わり、接し方や解決方法が変わってくる気がする。

この章のまとめ。

なにしろぼくたちは、かけがえのない地球に"同乗"している仲間です。国境や海を越えて理解を深めることは大事な一歩なのです。いまや人間同士が差別などしている場合ではないのですが、長い歴史が沈殿させてきたものは、現実にはなまはんかなことでは払拭できないものです。
でも、とりあえず、一歩、二歩踏み出す以外にないではありませんか。

国境問題に揺れる昨今、つい目が留まってしまった。

漫画を読んだことがある人には作品の裏話も楽しめるし、そうでない人も手塚治虫のメッセージに必ず感じることがあるだろう。
薄くすぐに読み終わるが、読み応えのある一冊だった。

読了日:2012.8.
★★★★★

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2012年8月14日

ruru (17:57)

カテゴリ:エッセイ・随筆・対談

『アメリカ彦蔵』吉村 昭

嘉永3年、13歳の彦蔵(幼名彦太郎)は、初航海で漂流してアメリカ船に救助される。
鎖国政策のため帰国が望みが薄いと感じた彦蔵は、そのまま渡米。
多くのアメリカ人の力を借りて知識と経験を得た彦蔵は、9年の月日を経て通訳として日本へ帰国するー。

江戸時代に多々あったという漂流。
鎖国によって海外の情報が限られている中で、外国へ渡る心細さはどれほどのものだっただろうか。

外国で教育を受けた後に帰国して活躍したと人物としてまず思いつくのはジョン・万次郎だが、一回り年下の彦蔵も「アメリカ彦蔵」として日米間の橋渡しをして活躍をしていたらしい。

1番の違いは、彦蔵はキリスト教の洗礼を受けてアメリカに帰化しており、アメリカ人として日本に舞い戻ったことだろう。
アメリカ政府の一員というのが帰国した彦蔵の立場を複雑なものにしている。

遭難して救助された時、彦蔵は歳が若かったこともありアメリカ人たちに同情され、可愛がられる。
若さゆえの柔軟性と吸収力、体力も幸いしたに違いない。
アメリカで教育を受け、仕事を得て立派に働きながら日本の情勢が変わるのを待ち続け・・そしてやっと夢にまで見た日本への帰国。

しかし幼い頃に日本を離れており、漢字は書けないが英語は達者、日本の世情に疎く視点も思考もアメリカ寄りになっていた彦蔵は、日本に戻っても外国人居住地に暮らし、攘夷派の武士から命を狙われる日々を送るはめとなる。

やはり自分の居場所はアメリカなのだと心に決めて再び渡米するが、アメリカでは南北戦争が始まっており、暖かく自分を見守ってくれていたアメリカは姿を変えていた。

結局は再び日本へ舞い戻ることとなるのだが、居場所を求めて彷徨う彦蔵の人生とは一体何だったのか・・。

吉村氏は彼は最後まで漂流者だったとまとめているが、その通りかもしれない。

この小説では彦蔵だけでなく、記録に残っている他の漂流者たちのことも細かく調べ上げられており、それだけでも読み応えがある。
万次郎や彦蔵だけでなく、海外生活を経て帰国した人物たちは特別な知識を持つ者として重用されていたことなどを詳しく知ることができた。

言葉が通じずとも漂流者たちを暖かく受け入れてくれる異国の船乗りたち。
彼らは必死に帰国の道筋を立ててくれるが、時は鎖国時代。
帰国が受け入れられずに涙を飲んだ者も多かったようだ。

それぞれの国の思惑、翻弄される個人、政治的駆け引きと個人的な人間としての交流・・。

穏やかに暮らしていただろう船乗りたちのあまりにもドラマチックな運命に激しく心が動かされた。

彦蔵も鎖国が明けたので帰れたが、もっと徹底していた以前なら帰国は叶わなかっただろう。
この作品内にも登場するが、そのまま大陸に住んだ人も大勢いたのではないか。
帰国できなかった人の人生を追うことができれば、それもまた興味深い作品になりそうである。

いつもながら丹念な取材に基づく情緒豊かな作品でとても良かった。
淡々と事実を綴る中に人間の感情の機微が感じられるところが魅力的でたまらないのである。

読了日:2012.8.1
★★★★★

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ruru (16:56)

カテゴリ:国内小説一般吉村 昭

『華氏451度』レイ・ブラッドベリ

あらゆる書物が禁じられた世界で、人々はテレビとラジオからの一方的な情報のみで暮らすことで満足していた。
焚書官モンターグの仕事は密告を受けて本がある家を燃やすことだったが、 出動を重ねる度にこの世界への疑問と本への興味を募らせていく・・。

レイ・ブラッドベリが6月6日に亡くなったと知り、追悼読書。
はるか昔の作品で自分も随分前に読んだきりだったが、今読んでも内容は瑞々しく新鮮である。

華氏451度は、紙が自然発火する温度のこと。

一方的な情報の海に身を任せることで思考を放棄し、無感動で情緒のない人間たちが多数を占めている世界。
沸き上がる感情を処理するためには、ハイスピードで車を飛ばすか薬を大量に飲んで眠るしかない。

焚書官モンターグも、自分の中の疑問や葛藤を心の奥にしまいこんで職務に当たってきたが、様々な経験を積み重ねる中で本を欲するようになる。
本を始末する最前線にいる焚書官だからこそ、本や持ち主たちと触れる機会があるというのが皮肉である。

元教授の老人は言う。

なにがゆえに書物が、恐れと憎しみの対象になるかもおわかりになったと思う。人生という顔の気孔をもっているからで、安易の世わたりだけを望んでおる人たちは、蝋のような、月面のような、気孔なんてもののない無表情の顔をよろこぶものだ。

つまりは、国民そのものが、本を読むことを忘れてしまっておる。禁じられたから、読まんわけじゃない。

政府が禁止したから仕方なく思考を停止したのではなく、人々が望んだ結果が今の状況をもたらしているという指摘。

この小説が書かれたのは1953年。
急速にテレビが普及する社会への警鐘だったようだが、解説でノンフィクション作家の佐野眞一氏は、今の日本の出版事情や社会を見れば、本作品に描かれる未来は決してSF小説では片付けられないとまとめている。

テレビ・ラジオに加えインターネットの急速な普及で、活字離れは更に加速している。
電車内では大人もゲームに興じているし、本のあらすじも感想も検索してつなぎ合わせて終了という人も多いという。

古さをあまり感じさせないのは、この作品が発する警鐘が現代にも続いているからだろう。
しかしこの警鐘も結局"本"というものを読まないと受け取れないという矛盾があるのがもどかしい。

読了日:2012.7.
★★★★★

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2012年8月 6日

ruru (23:16)

カテゴリ:海外小説一般その他の作家(海外小説一般)

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