2012年9月アーカイブ

『万引き天女』ねじめ 正一

万引きに頭を悩ませている民芸店主門花。
どうやら最近良く来店する帽子を被った女が怪しいのだが、ふとしたことから門花は彼女に淡い恋心を抱くようになり・・。『万引き天女』他2篇。

万引きは現行犯逮捕が原則。
どうも怪しい帽子の女に店中で警戒するものの、なかなか尻尾をつかめない。
厄介なのは、目が肥えていてたまに買い物もしてくれる良き常連でもあるということ。
見張り続けるうちにいつしかそれは恋に変わり・・。

話の雰囲気や展開は面白いとは思うのだが、何となく冗長的な印象。
色々と事件らしきことは起こるものの、不思議過ぎるか日常的なことだからかでふわふわしているからだろうか。

他の短編もお遊びっぽい作品で、さらっと読めるが印象に残らないような軽い小説だった。
悪くは無いが物足りないまま終わってしまった。

読了日:2012.9.
★★★☆☆

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2012年9月29日

ruru (20:31)

カテゴリ:国内小説一般ねじめ 正一

『冷たい誘惑』乃南 アサ

同窓会で久しぶりに羽目を外した主婦織江。
泥酔したまま行き着いた歌舞伎町で見知らぬ少女にもらった包みの中身は拳銃だった。
最初は恐ろしく感じた織江だが、徐々にその存在が頼もしく思えてきて・・。
1つの拳銃を通して、様々な人間ドラマを描いた連作短編集。

普通に暮らす人が突然手にした拳銃。
非日常的なアイテムが日常を全く異なるものへと誘っていく。

平凡な主婦、家出中の中学生、新人サラリーマン、元警察官・・1つの拳銃は人々の間を渡り歩き、その生活や精神状態に変化をもたらす。

繊細な心理描写は乃南さんらしいし、繋がりも見事で巧いと思うが、いま1つ物足りない。
烏で拳銃というのもなんだかおかしいし、拳銃を預ける話もやや疑問。
主婦と少女の話は面白かったが。

拳銃だけでなく他の事件なども巧く関連づいているとなお満足があって良かったかもしれない。

読了日:2012.9.
★★★☆☆

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『虹の翼』吉村 昭

明治時代、ライト兄弟よりも10数年も前に航空機を考案していた男が日本にいた。
空に憧れ「飛行器」製作に情熱を傾けた二宮忠八の生涯。

烏の飛行を見て、人間が空を飛ぶための「飛行器」を製作しようと考えた忠八。
様々な鳥や昆虫の飛行を研究し、遂には「玉虫型飛行器」の設計を完成。
模型の飛行には成功するが、実現させるには資金もなく、軍の力を借りようとするが3度も却下されてしまう。

忠八は民間企業で働いて資金を貯めながら個人で研究を続けることを決心し、経済界では成功を収めていく。

しかしその間に世界では気球や飛行船など、次々と空へ乗り出す研究者が出現し、遂にはライト兄弟が飛行機の飛行を成功させたことを知るのだった。

資金や国の協力があったならば・・と悔しさの中研究を終わらせる忠八だが、その後国内ではその研究が認められたことで少しは報われたのではないだろうか。

作品では「飛行器」に掛けた生涯が描き出されているが、生活のために幼い頃から働きに出て軍人になり、その後製薬会社でトップまで登りつめたものの研究は報われず・・という苦労の日々は、研究以外の部分が多く、ところどころ飽きてしまった。

忠八の人となりや情熱を感じることができ、また当時の世情や飛行機発明の過程などがわかって面白かったのだが、もう少しコンパクトでも良かった気がする。
新聞の連載小説だったようなので仕方ないところか。

更に先駆けて空を飛ぼうとした表具師幸吉らにも興味が沸いた。
江戸時代のこと、研究者の中には怪しい実験だと斬首された人もいたというから気の毒な話だ。
同様に世界にも名の知られぬ挑戦者たちがいたのではないかと想像するのも楽しい。

読了日:2012.9.23
★★★★☆

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2012年9月24日

ruru (10:41)

カテゴリ:国内小説一般吉村 昭

『猛スピードで母は』長嶋 有

母親の代わりにやってきた父の愛人洋子さんと薫のひと夏の交流を描いた『サイドカーに犬』。
突然再婚を宣言した母を冷静に見つめる慎の毎日を描いた『猛スピードで母は』。全2編。

『サイドカーに犬』は両親の離婚直前に父の愛人と交流する娘の視点、『猛スピードで母は』は、シングルマザーである母の恋愛を冷静に見つめる息子の視点で描かれている。

どちらの作品も、感受性豊かな子供たちの心情が見事に表現されていた。

登場する大人たちは時に子供のように振る舞い、子供たちは時に大人のような冷静な観察眼を持つ。
近すぎず遠すぎない親子関係の微妙な距離感が味となっていて、独特の雰囲気を醸し出している。

子供たちは常に幸福でも不幸でもなく、状況に対して淡々と受身だ。
『サイドカーに犬』では、母親が出て行っても悩むことなく突然現れた他の女性を受け入れる。
『猛スピードで母は』では、母親が恋人と旅行に出かけて帰らなかった夜に、そのままいなくなってしまっても納得できると考える。

自ら生活を変えることが難しい子供だからこそ、順応力に優れているのか。
2つの作品とも大人が考えるような子供像ではなく、子供そのものの心情がリアルに描かれているように感じた。

しかし暗さはなく、周りの大人たちの力強さで爽やかな読み心地となっている。

力の抜けた文章で繊細な人間心理が表現されていて良い作品だった。

読了日:2012.9.20
★★★★★

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2012年9月21日

ruru (10:44)

カテゴリ:国内小説一般長嶋 有

『冬の犬』アリステア・マクラウド

カナダ東端の島ケープ・ブレトン。
吹雪、海、家畜、犬、祖父母の記憶・・極寒の島での人々の営みの物語集。

ケープ・ブレトン島は、プリンス・エドワード島の隣だとか。
『赤毛のアン』で馴染み深いプリンス・エドワード島は四季が豊かな島という印象だったが、こちらでは灰色の世界が広がっている。

スコットランド移民の誇りと島での暮らしは、閉鎖的な印象を与える。

開拓者である彼らの暮らしは粗野で荒々しく逞しい。
抑揚の無い文章の中に息づく人間の営みに強い生命力を感じることができた。

この島出身の著者が自らのルーツを紐解くような物語集で、見知らぬこの島について全てを知ってしまったような気持ちにさせてくれた。

読了日:2012.9.19
★★★★☆

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2012年9月20日

ruru (12:56)

カテゴリ:海外小説一般その他の作家(海外小説一般)

『晩鐘〈上〉〈下〉』乃南 アサ

『風紋』から7年。
社会人になった真裕子は今も事件を忘れられず、新たな生活を始めた父や姉を許せないでいた。
祖父母の下で父親も母親も知らぬまま育った大輔は、内に秘めた怒りをコントロールしながら体の弱い妹絵里を守り抜こうとしていた。
1つの殺人事件が、二つの家族に再び波紋を起こすー。

母を殺された娘と殺人犯を父に持つ子供たち。
事件は決して風化しない。

一見日常を取り戻したように見える真裕子も、無軌道に堕ち続ける香織も、何も知らずに育ったはずの大輔・絵里も、薄氷を踏むような精神バランスを保ちながら何とか生きていた。

真裕子の精神的な不安定さは悲しいが、救いのある結末で少しほっとした。

しかし一方大輔と絵里は・・。
やり切れない思いになるが、物語としてはとても巧くまとまっていた。
こういう結末しかないのかもしれない。

祖父母が引っ越しもせずに大輔たちに過去を隠し通せているのには違和感があったが、とにかく繊細な心理描写に圧倒される。
長編の大作だが、途中で止まれずに一晩で上下巻を一気読みしてしまった。

読了日:2012.9.15
★★★★★

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2012年9月18日

ruru (21:13)

カテゴリ:国内ミステリー乃南 アサ(ミステリー)

『夜鳴きめし屋』宇江佐 真理

本所五間堀の「鳳来堂」は、父音松の死後に息子長五郎が開いた居酒見世。
父親の代からの昔なじみ、武士に職人、芸者や夜鷹など常連客たちに支えられてそれなりに繁盛している。
何となく一人暮らしを続けていた長五郎だったが、昔関係を持った芸者みさ吉の息子が自分の息子ではないかと悩み始め・・。

『ひょうたん』続編。

主人公だった音松は死んで息子長五郎に代替わりしている。
店も骨董屋から居酒屋へ様変わり。

馴染みの登場人物も多少はいるが、シリーズの意味があるのかは疑問。
何作も出ているシリーズの中で代替わりしていくのはわかるが、1冊しかなく好評だったにも関わらず、2冊目で既に主人公が替わっているのはどうなのだろう。

内容も特に過去は関係のない長五郎の恋愛が中心だ。
昔関係を持った芸者と息子であろう少年への複雑な想いを胸に、居酒屋に来る客たちとの交流や人間模様などが描かれている。

江戸人情話として読みやすくそれなりに面白かったが、今後みさ吉を迎えた「鳳来堂」を舞台にしたドラマの方が深みが出て期待できそうだ。

大体宇江佐さんの小説の男はぐずぐすと煮え切らないタイプが多すぎる。
肝っ玉の据わった女房がいてこそ物語も華やぐと思うのだが。

読了日:2012.9.14
★★★★☆

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2012年9月16日

ruru (23:49)

カテゴリ:国内小説一般宇江佐 真理

『オイドル絵っせい 人生、90歳からおもしろい! 』やなせ たかし

子供のアイドルがチャイルドなら老人のアイドルはオイドル!

アンパンマン作者やなせたかしのイラスト付エッセイ。
脱力系の文章に可愛いイラストで心がふんわりする本。

現在93歳のやなせ氏の老人的日常?がおもしろおかしく書いてあるのだが、体を治しなおし弱音を吐きつつも精力的に活動する様子は、同年輩の方にも後塵を拝する若輩者にも勇気を与えてくれるのではないか。

「元気お爺さんお達者くらぶみたいなあつかいで、元気のないぼくに元気なふりをさせる」仕事が増えたので、インタビュールームを作ったとか。

入院したら看護婦さんは寄ってくるし、小児病棟にアンパンマンの絵を依頼されるしとか。

アンパンマンがアニメ化されて人気が出たのは69歳だったのだから、人生何があるかわからないよ、とか。

時折社会や若者への意見もあるが、優しく"曖昧"で説教臭くならないのが著者の人となりを表している。

オマケで戸田恵子との対談も収録されている。

年齢を感じさせないバイタリティには驚くばかりで、元気をもらえる1冊だった。

読了日:2012.9.
★★★★★

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ruru (23:20)

カテゴリ:エッセイ・随筆・対談

『鍵』乃南 アサ

両親を相次いで亡くした秀子、俊太郎、麻里子の姉弟妹。
近所では通り魔事件が多発していた。
麻里子は事件に関係する鍵を手にしていたが、良き相談相手だった兄俊太郎との関係がうまくいかずに一人で解決しようと動き出す。
その内事件は殺人事件にエスカレートしていき・・。

通り魔事件に関係する鍵を手に入れた耳の不自由な麻里子と、両親を亡くして妹の面倒を見ることに不安を感じている兄俊太郎、弟妹を案じて結婚に踏み切れない姉秀子の家族関係が事件と共に描き出されている。

大人になりきれない俊太郎と何とか自立しようともがく麻里子の心情が繊細に表されているのは悪くないが、事件自体に深みがなくてやや物足りない。
兄妹の関係がぐずぐずしている内に無差別殺人のように展開していくのは、納得しづらい。

家族の愛情を描くということでは心動くものもあったが、読後の満足感はもうひとつといったところ。

読了日:2012.9.14
★★★☆☆

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2012年9月15日

ruru (16:52)

カテゴリ:国内ミステリー乃南 アサ(ミステリー)

『生物から見た世界』ユクスキュル,クリサート

同じ空間に存在しながらも犬やハエは人間と同じ景色を見てはいない。
環世界は生物同様に多様である。

生物たちの環世界を主観的に捉えようと実験・考察したもので、数十年前の著書ながら今だ読まれる名著の一冊。

理系の話は苦手だが、一度くらいは読んでおこうかと手に取った。
どちらかというと概念的な話なので、専門知識がなくても読めるしページ数も少ないのだが、内容を深慮しようとすると深すぎてきついものがある。

ダニは産卵前の食事のためなら十数年間も活動を休止していられる。
人間とは別の時間を生きている。
時間なしに生きている主体はありえないと考えることは間違いで、生きた主体なしには時間も空間も存在しない。

ミミズは味覚、ミツバチは形態、蛾は音・・あるいは色、温度など生物たちは捕食や繁殖の必要性に応じて人間とは全く違う知覚で生きている。

今ではこういった生態を捉えて彼らとの付き合い方を考えたり、技術に活かす活動がされていると思うのだが、原点はこういった環世界の研究からきているだろう。

ここでは人間の環世界についても触れている。
同じ木を見ても、人の顔が見えたり悪魔のように感じたりするのは、それぞれが持つ環世界が異なるから。

内容が本質的なもの故に理解度に個人差がつく本だと思う。
読むは容易いが私の中ではすっきり理解できたと言い難い。
何度も読み返してみないと自分の理解度に納得がいかない気がする。

読了日:2012.9.12
★★★★☆

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2012年9月14日

ruru (23:12)

カテゴリ:その他

『ひなこまち』畠中 恵

助けを求める木札と出会った若だんな。
するとまるで導かれたように次々と悩み事の相談が持ち込まれるようになり、妖たちの力を借りては尽力する羽目に・・。
しゃばけシリーズ最新作。

11冊目に当たるのか。
しゃばけシリーズも長くなった分面白い時とそうでもない時があるのだが、今回は軽快なテンポで話が進み読んでいて楽しかった。

開かない船箪笥の謎、悪夢をネタにした咄家の獏、美人番付と着物泥棒、花見と河童の秘薬・・。

それぞれ別個に見えた出来事が巧く繋がった短編連作集になっており、若だんなも妖たちも大活躍。
事件は起こるがそれほど重苦しい話もなく読み心地が良かった。

しゃばけシリーズは、長編よりも連作の方がメリハリがあって良い気がする。

就寝前にさくっと読める軽い小説。
御馴染みの登場人物たちばかりだが、物語は独立しているのでシリーズを読んだことがなくてもまあまあ楽しめるのではないだろうか。

読了日:2012.9.
★★★★★

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2012年9月13日

ruru (12:20)

カテゴリ:国内小説一般畠中 恵

『若冲になったアメリカ人 ジョー・D・プライス物語』ジョー・プライス,山下 裕二

著名な江戸絵画コレクターであるアメリカ人、ジョー・プライス氏の半生を追ったインタビュー。

伊藤若冲と言えばジョー・プライスと対になっていると言っても過言ではないかもしれない。
美術展だけでなくメディアにも度々登場するので知らない人はいないだろう。

そんな彼がどんな経緯で日本を訪れ、若冲に魅せられていったかを語っている興味深い本。

とにかく江戸絵画への愛が深いことに感嘆する。
日本の芸術作品が海外へ流出してしまうのは勿体無い気もするが、これだけ純粋に愛情を注いでくれる蒐集家なら是非にと思える。

美術品を見る目の確かさや並外れた財力にも注目だ。

後半はプライス氏がお気に入りのコレクションを紹介してくれている。
白黒写真だが、見ごたえがあって楽しかった。

日本美術に興味がある人にはオススメの一冊。

読了日:2012.9.
★★★★★

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ruru (12:02)

カテゴリ:エッセイ・随筆・対談

『続・泥流地帯』三浦 綾子

十勝岳の泥流は、田畑も家族も友人も一瞬にして奪っていった。
死んだ祖父たちの思いを胸に、硫黄にまみれた土地を再生しようと懸命に働く拓一・耕作兄弟だったが、試練は次々と襲い掛かる。
真面目に生きる人々が報われるときはくるのかー。

『泥流地帯』続編。

祖父母が開拓に入って30年。
懸命に切り開いてきた土地は全て泥流の下に埋れてしまった。
土地を捨てる人も多いが、拓一は村の復興を誓う。

荒れた土地に立ち向かい、復興に反対する街の人たちと反目する日々。
あれほど待ち望んでいた母が帰郷したというのに、11年という年月が壁となりなかなか打ち解けることができない。

父親が作った膨大な借金を抱えて遊女として働く福子を一途に思う拓一。
妓楼の主人である父親と反目する節子の愛を受け入れた耕作の恋の行方。

若い兄弟に次々と訪れる苦難と葛藤は、続編でも留まる気配はない。
前作ではあまり登場しなかったキリスト教も少々顔を出しながら、人生の報いを問うという壮大なテーマを掲げた作品となっている。

拓一のあまりの聖人君子ぶりに違和感を感じつつも、自分の弱い心を恥じて兄を尊敬する耕作の視点で話が進むことで、一般的な人間の目線の高さで考えさせられ、受け入れられやすい内容になっていると思う。

現実は決して善因善果・悪因悪果ではない。
どう受け止めてどう行動するかが大切なのであるー。

勧善懲悪、因果応報ですっきりしたいのが人情だが、現実同様この小説ではそれは許されない。
真面目に働いても貧しい者は貧しいままで、悪は栄えて善良な人々の前に立ちはだかる。

切なくむなしい人生の中にあっても、正しく生きようとする若者たちの姿が美しい。

結末が暗示するのはやはり前途多難な未来だが、希望を感じられる清清しさがある。
何とか安心して読み終えることが出来て良かった。

読了日:2012.9.
★★★★★

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2012年9月12日

ruru (10:32)

カテゴリ:国内小説一般三浦 綾子

『風紋〈上〉〈下〉』乃南 アサ

高校の父兄会へ出かけたまま母が戻ってこない・・。
父は愛人の元へ、家庭内暴力で荒れる姉も帰宅せず、真裕子は一人で不安な夜を過ごす。
3日後に他殺体で見つかった母の秘密、捕まった犯人、戻ってきた家族、周囲の視線・・事件を機に真裕子を取り巻く環境は一変してしまう。
一方犯人の家族も大きな苦悩と試練に襲われるのだったー。

犯罪被害者とは単に事件の被害者だけでなく、被害者家族、加害者家族、関係する人々全てを含むのではないかー。

「運命を狂わされ、心に癒し様のない傷を負った人たちを救う手だては、現在のところ皆無と言って良いと思う。」
文庫裏表紙の作者の言葉だ。

殺人事件の真相を明らかにしていくミステリではあるが、被害者の娘真裕子と加害者の妻香織の二人を軸に、人間の脆さや日常の不安定さを描き出す人間ドラマとなっている。

母が殺されたことで家族は支え合って現実に立ち向かい、少しずつ再生へ向かおうとする。
しかし、普通の女子高生だった真裕子の生活も価値観も決して昔に戻ることはできない。

思春期の少女の危うい心の動きが繊細に描き出されていて、我が事のように胸が苦しくなる。

また、突然犯罪者の妻という役割を与えられた香織のターンでは、満ち足りた生活が一瞬にして崩壊していく恐ろしさを感じることができる。
一見自分勝手な女性像だが、現実から逃避しようともがく哀れな姿がリアルすぎてこちらもまたいとも簡単に感情移入できてしまう。

正反対の立場にありながら一番近いところにいる・・。
1つの犯罪が生み出した多くの被害者たちの心の動きが繊細に描かれていて読み応えがある作品だった。

上下巻でそれなりの長編だが、目を離すことができずに一気に読み上げてしまった。

続編もあるようなので早速読むつもり。
記者の建部が良い雰囲気なのでまた登場していると良いのだが。

読了日:2012.9.
★★★★★

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『TOKUGAWA 15(フィフティーン) 徳川将軍15人の歴史がDEEPにわかる本』堀口茉純

著者はお江戸ル(お江戸のアイドル)で売り出しているタレントらしい。
テレビで見かけて興味を持ったので読んでみた。

タイトル通り徳川将軍15人を紹介しているのだが、文章もくだけているし自作のイラストなどもあって歴史同人誌のような作り。
似顔絵なども結構巧い。

かなり主観的で雑多な印象は受けるが、歴史好きの愛情が伝わってきて一緒に楽しめる。

何しろ250年もの歴史があるので、人となりに政治背景、政策・・と全てを詳細に説明するととても読む気になれない分厚い研究書になってしまうだろう。
軽く並列に比べていけるボリューム感は読みやすくて丁度良かった。

読了日:2012.9.
★★★★☆

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2012年9月 7日

ruru (22:32)

カテゴリ:歴史・民俗

『日本人のためのアフリカ入門』白戸 圭一

『ルポ 資源大陸アフリカ 暴力が結ぶ貧困と繁栄』が良かったので、同じ著者の本として読んでみることにした。

日本とアフリカの距離感、イメージ、重要性などマスメディアに焦点を当ててアフリカの今を解説している。

アフリカにテレビ取材が入ることも増えたが、固定観念による貧しさや不遇さばかりを強調して現状を理解しようという努力が見られないこと。

アフリカの内紛は原始的な部族対立のように報じられがちだが、実際には政治や格差社会といった先進国と同様の社会現象から起こっていること。

新聞記事を書く際に欧米の視点について一文を入れなければアフリカについての記事は掲載されずらいことなど・・。

昔よりはアフリカの情報は入ってきているように感じていたが、実情を理解するには程遠いということがよくわかる。

また日本の外交について考えさせられる昨今だが、被援助大国から資源大国へと様変わりしているアフリカ外交においても日本が遅れを取っているのはどうしたら良いのか。

"アフリカ入門"と銘打っているだけあって、読みやすくあっさりとまとまっている。
物足りなさもあるが、更に深く知りたいという欲求が深まる一冊でとても興味深い内容だった。

読了日:2012.9.
★★★★☆

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ruru (15:07)

カテゴリ:社会・ルポ・ノンフィクション

『商人』ねじめ 正一

初代伊兵衛が一代で築き上げた鰹節商伊勢屋にんべん。
跡を継いだ伊兵衛と弟伊之助は、父亡き後傾いた家業を立て直そうと努力を続けるが、度重なる苦難に伊兵衛の心は病んでしまう。
伊之助は兄の代わりに新たな商売を模索し伊勢屋の進むべき道筋を探すことになるー。

鰹節と言えばにんべん。
そのにんべんの興りと伊之助が三代目を襲名するまでの苦難のドラマである。

露天商から大大名御用達の大店の主にまで成り上がった初代伊兵衛。
その初代が亡くなった途端、手のひらを返すように周囲の者たちは離れていき店は傾く。
跡を継いだ若い兄弟では力が足らず、伊勢屋は落ちるところまで落ち続ける。

店の復興に尽力するも心折れ力尽きた二代目伊兵衛が哀れだ。
しかしその兄がいたからこそ伊勢屋は続き、次男という立場に甘んじていた伊之助が成長していくこともできたと言えるだろう。

大名家の事情に振り回されるよりも、市井の人々に喜ばれる鰹節を売ることで伊勢屋を立て直したいー。
それまでの常識を覆し、自ら鰹節を作ることで低価格を実現、手間をなくした削り節の販売なども始める伊之助。

何のために商いをするのか?
タイトルの"あきんど"が表すように、三人三様の商人の意地に胸が熱くなる。

活気に満ち溢れた鰹漁師たちとの交流、商家を支える力強い女たち、男の友情、同業者たちとの駆け引きなども巧く絡んで読み応えがある大作だった。

読了日:2012.8.31
★★★★★

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2012年9月 1日

ruru (12:04)

カテゴリ:国内小説一般ねじめ 正一

『雪の花』吉村 昭

多くの人命を奪う天然痘。
確実な予防法があると知った福井藩の町医・笠原良策は、私財を投げ打ち身を捧げて種痘を広めようと情熱を燃やす。
しかし、天然痘の膿を体に埋め込むという方法は、藩医にさげすまれ、人々に恐れられて一向に広まらないのだった・・。

人類の歴史に深く影を落す天然痘。
現代まで取り入れられてきた種痘という予防法を、故郷で広めようと人生をかけた一人の町医の情熱を描く。

神仏に祈るしかなかった天然痘に忸怩たる思いを持っていた漢方医良策は、一人の医師との出会いをきっかけに蘭方の勉強を始める。

恩師日野鼎哉から海外では既に種痘という予防法があると聞き、何とか種痘の苗を輸入したいと考えるのだが、折りしも鎖国の時代。
オランダからの苗は日にちが経っていて使い物にならず、何とか清から輸入したいと策を練るー。

苗を手に入れ、発痘させ、絶やすことなく福井藩へ運び入れ、人々に広める。

何段階もの大きな苦労を経て天然痘の予防法を定着させていく良策の執念に尊さを感じずにはいられない。

種痘と言えば緒方洪庵のイメージが強かったが、洪庵に苗を分けたのは鼎哉と良策とのこと。
もっと讃えられても良いのではないかと思うが、今や天然痘は根絶され、日本の種痘の歴史に名も残っているので少しは報われたと言えるだろうか。

ただ疑問だったのだが、子供で苗をつなぐことに苦労していたが、大人ではだめだったのだろうか。
大人でも大丈夫そうなのだが、当時の知識では子供となっていたのか?疑問が晴れずにモヤモヤしてしまった。

しかしこれほど人々が歴史の中で苦しい戦いを続けて打ち勝った天然痘だが、根絶され誰も免疫を持たない今は生物兵器として利用されることを恐れているのだとか。
なんとくだらないことだろう。

実際にイギリス軍がインディアンとの戦争で使用したというが、おぞましさに本当にぞっとする。

自衛隊も未だに種痘を受けているとかどこかで読んだ。

この作品では良策始め多くの医師たちの天然痘撲滅への情熱に胸を打たれるが、同時に現代ではこのような愚かさを感じなくてはいけないことがむなしい限りだ。

読了日:2012.8.28
★★★★★

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ruru (11:06)

カテゴリ:国内小説一般吉村 昭

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