2012年11月アーカイブ

『オリーブ』吉永 南央

オリーブの木を土産に買って帰った翌日、妻は姿を消した。
婚姻届すら出されていなかった事実、彼女の名前、過去・・夫は、次々と知られざる妻の顔に直面するー。
表題作『オリーブ』他4編から成る短編集。

"大人の嘘"をモチーフにしたサスペンス集、とのこと。

この著者の作品は、『萩を揺らす雨―紅雲町珈琲屋こよみ』に続いて2冊目だが、こちらの方が面白かった。

近くにいながら遠い存在。
例え家族であっても実のところ相手のことなど何もわかってはいないのだー。

夫や妻、恋人、妹の別の顔。
知るにつれ寒々しさが増していく。

身近な人間の裏切りほど恐ろしく、落胆するものはないのではないだろうか。
しかし、その中にもやはり愛や温かさがあるところが救い。

一番怖かったのは『カナカナの庭で』。
ホスピスから最後の外泊を許されて自宅に帰ってきた夫が見たものは・・。
穏やかな結末で納得なのだが、嘘の内容が衝撃的だった。

どの作品でも殺人事件が起こるわけではないが、恐ろしきは人の心。
濃密な人間関係に波紋を起こす形で描かれた大人のサスペンスで読み応えがあった。

読了日:2012.11.27
★★★★★

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2012年11月27日

ruru (19:31)

カテゴリ:国内ミステリーその他の作家(ミステリー)

『道をひらく』松下 幸之助

経営の神様松下幸之助が、PHPに連載していたものをまとめた1冊。
発行されてから既に44年も経っているのに、今だ重版が続いているベストセラーである。

長い間積読していたのをやっと読んだ。

経営哲学に特化せず人の生き方や心の持ちようについて説いているので、時代の古さは関係なく普遍的な内容になっている。
仏教書のような趣きで簡潔にまとめられており、物足りなさを感じる人もいるかもしれない。
しかし、説得力はやはり松下幸之助という大人物ならでは。

個人、会社、国家の繁栄にまで思いは馳せられているが、松下幸之助が今の日本やパナソニックを見たらどう思われるのだろう。
各個人から軌道修正を行い、何とか良い状態にしていきたいものだが。

色々と響く言葉はあったが、今現在一番心に残ったのは"一人の知恵"。


「見ること博ければ迷わず。聴くこと聡ければ惑わず」
相手がどんな人であろうと、こちらに謙虚な気持ちがあるならば、思わぬ知恵が与えられる。


年齢を重ねるにつれ、頑固で自己中心的になりがちだと感じているので肝に銘じて。

おそらく読書時の状況によって響く言葉は変わってくるだろう。
折に触れて読み返したい。

読了日:2012.11.26
★★★★☆

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ruru (17:44)

カテゴリ:ビジネス・自己啓発

『祝! 四代目市川猿之助襲名記念 僕は、亀治郎でした。』四代目 市川 猿之助


四代目猿之助襲名記念のフォトブック。
発売前は気にかけていたのにすっかり忘れていて今頃購入した次第。

お祝いメッセージ、舞台や楽屋の写真、襲名を追った取材など。
フォトブックなので写真が多め。

亀治郎としての軌跡がまとまっているのが良かった。
自分が観に行った舞台を思い出しながら楽しめた。

博多座の『天竺徳兵衛新噺』の舞台メイキングが面白い。
丁度先日明治座で鑑賞したばかりの演目なので、記憶も新しくタイムリーだった。

少々値段がするがファンなら楽しめる1冊。
既に重版しているようなので売れているのか。
それならまた別の本も出して欲しい。

読了日:2012.11.25


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2012年11月25日

ruru (22:57)

カテゴリ:その他

『怖い絵』中野 京子

一時期話題になった美術本を今更読んでみた。

一見して血を見るような絵画からそうとは思えない穏やかな絵画までを取り上げ、その背景や作成意図などを恐怖という側面から捉えた美術論。

最近は数ある美術番組などで作品解説を耳にする機会も多く、それほど驚くような内容はないが、まだ観たことの無い作品もあって興味深く読んだ。

文中にも作品の大きさについて随分触れているが、小さな印刷で見るだけでは迫力がなくあまり恐ろしさが伝わってこないのは残念。

やはり絵画は実際に鑑賞しながら解説を聞くのが一番。
気軽に観に行ける絵ばかりなら、すぐ確認できてもっと楽しめそうだ。

今後鑑賞する時の参考としたい。

読了日:2012.11.23
★★★★☆

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ruru (21:58)

カテゴリ:その他

『64(ロクヨン)』横山 秀夫

D県警の広報官となった元刑事三上は、広報室の改革に乗り出すが思うように動けずにいた。
上司の思惑、記者たちの要求、同期や部下との関係、家出した娘・・。
三上が様々な葛藤と苦闘する中、14年前の誘拐事件(通称ロクヨン)を巡り、刑事部と警務部が激しく衝突するというD県警前代未聞の事態に陥るー。


待ちに待った7年ぶりの新作。
横山秀夫健在なり!

刑事としてのプライドを押し殺して広報官として職務を全うしようとする三上。
警務部と刑事部、上司と記者、家庭と仕事・・様々な狭間で揺れ動く一人の男の心情を精緻な筆致で描き出す。

ずっしりとしたボリュームに見合う密度の濃い内容だ。

刑事ではなく広報官の三上が主役になることで、事件を追うミステリ要素よりも組織で生きる男の生き様に重点が置かれているように感じたが、結末の仕掛けは衝撃的。

様々な伏線が張り巡らされ、全てが美しく収束していく。

丁寧で無駄のない描写で全ての登場人物たちの輪郭が鮮明に浮かび上がり、物語にリアリティをもたせている。

これは警察小説でありミステリであるのだが、丹念に描かれているのは"人間"である。

執筆中精神的に追い込まれたとの話だが、これだけ綿密に創り上げようとすればそうなるのも納得。

元々心理描写に長けた作者ではあったが、『64』は特に真摯に人間を掘り下げているように感じた。

生みの苦しみは見事に昇華している。
横山秀夫の力量に恐れ入るばかり。

素晴らしい小説はたくさんあるが、結末を知って尚何度でも読みたいと思う作品は意外と少ない。
特にミステリの場合は、謎が解けてしまうとしばらくは満足してしまうものだが、またすぐに読みたくなってしまう作品だった。

大長編で値段も高いと手を出すのに躊躇している人には、損はないので是非今すぐ読んで欲しいと伝えたい。

読了日:2012.10.31
★★★★★

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2012年11月14日

ruru (23:04)

カテゴリ:国内ミステリー横山 秀夫(ミステリー)

『吉村昭---総特集 歴史の記録者 (文藝別冊)』

吉村昭が亡くなった後に発行された文芸別冊特集。

単行本未収録の小説、エッセイや講演などと奥様の津村節子の対談、評論家たちの寄稿から成っている。

対談の相手は池波正太郎、立松和平、山内昌之と豪華。

未収録作品が読めたのは嬉しい。
また取材の裏話や執筆への真摯な想いなどが語られていて、まだ読んでいない作品を早く読みたいという焦りに駆られてしまった。

このムック本の中で一番納得したのは司馬遼太郎の比較をした末國氏の評論。

"ロマンに溢れ、読者を挽きつける娯楽性を持った司馬遼太郎の"歴史小説"。
それに対して吉村昭が描く小説は、徹底的に史料を研究し尽くし、負の要素も漏らさず取り上げた"史伝"である。"とのまとめ。

その日の天候まで調べ、実際にその土地を歩いて感じたことまでを活かす執筆方法だからこそ、史実や登場人物たちの感情がリアリティを持って迫ってくるのだろう。

初めて読んだ吉村昭は『長英逃亡』だったと思う。
10代の頃で正に司馬遼太郎にはまっていたものだが、その時も恐ろしいほどのリアリティを感じ、追われる夢を見たものだ。
それ以来ずっと印象に残っていた。

その後しばらく間があいてしまったのが、最近また読み始めた。
どれも濃厚な作品ばかりなので、毎日サラサラとは読めないが、今後新作が無い以上お楽しみのためにゆっくり読むのも悪くないかもしれない。

読了日:2012.11.

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2012年11月13日

ruru (19:31)

カテゴリ:国内小説一般吉村 昭

『絵のある自伝』安野 光雅


安野さんのエッセイをまとめた自伝。
"絵のある"とあるように可愛らしい挿絵が贅沢に描かれていて1冊で2倍楽しめる本になっている。
(この価格はかなりお得では?)

個人的に安野さんのイメージは絵本が強く、これもまた大人の絵本のような作りなのが嬉しい。

子供の頃の思い出、故郷のこと、家族の話。
炭鉱で働き、戦争に行き、復員して教師となった若い頃。

また、画家として立ってから現在までの思うこと。
旅の絵本のスケッチ旅行や司馬遼太郎との交流などの裏話もありお得な気分になれる。

混乱の時代を過ごしながらも、持ち前のユーモア溢れる回想記となっていて読んでいて楽しい。

やはり好奇心を持って何でも楽しむ精神があるからこそ、いつまでも若々しい感性が保てるのだろう。

美しく夢のある絵にぴったりのお人柄が感じられて温かい気持ちになれた。

最後の『空想犯』は夜中に一人で大笑いしてしまった。
毎年年賀状に遊びを施していたが、ある年刑務所からの年賀状という設定で作成したところ、出来が良すぎて大変な騒ぎになってしまったとのこと。

どんな年賀状なのか掲載されているのでまだの人は是非見てほしい。

読了日:2012.11.
★★★★★

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ruru (18:10)

カテゴリ:自伝・伝記

『八朔の雪―みをつくし料理帖』高田 郁

神田明神下御台所町の蕎麦屋「つる屋」。
上方出身の料理人澪は、江戸で自分の料理が受け入れられないことに悩んでいた。
しかし、一緒に江戸に出てきたお芳や店主の種市、長屋の仲間や常連客の小松原の力を借りて少しずつ工夫を重ねていく内に人気のメニューを生み出していくー。

天涯孤独な身の上で、世話になった女主人を支えて江戸でその日暮しをする澪。
苦難の中勇気を持って前を向こうとする姿を誰もが応援したくなるだろう。

少しずつ料理人として成長していく姿や見守る人々の人情が温かな気持ちにさせてくれる。

当時は今よりも上方と江戸の味の違いが顕著だったのかもしれない。
その違いも楽しめるし、だからこそ新しい味を生み出していくという設定が良いし、しっかり料理帖が付属しているところも面白い。

主人公が少女のせいかどこかふわふわした印象の作品だが、魅力的な登場人物も多く、巧く作りこまれているので人気なのもうなづける。
続きも読んでみたい。

読了日:2012.11.
★★★★☆

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2012年11月 7日

ruru (00:47) | コメント(2)

カテゴリ:国内小説一般高田 郁

『江戸お留守居役の日記』山本 博文

萩藩江戸留守居役・福間彦右衛門の日記『公儀所日乗』から知る江戸留守居役の仕事内容。

江戸留守居役とは「藩=国」の江戸時代において、幕府や諸藩との折衝役を務めたいわゆる外交官である。

徐々に接待を口実に藩費を浪費する困ったお役目になっていったらしいが、彦右衛門の時代(家光の頃)にはまだまだ幕府の体制も磐石でなく、色々と気苦労が多い大変な仕事だったようだ。

『公儀所日乗』には、自藩が不利にならぬよう幕府重役に気を使い、諸藩との軋轢を避け、町方との関係にまで気を配っていた様子が記録されている。

彦右衛門が実際に取った行動を追うことで、留守居役の判断1つで藩が危機に陥ることもあった重要な仕事でありながら、細々した気遣いも必要であったということがよく理解できた。

この書を読む限り、彦右衛門はとても優秀な人間だったことがよくわかる。
現在の日本にもこういった優秀な外交官が必要なのだが・・。

史料に基づき様々な例が挙げられているが、どれも読みやすくまとまっていて飽きることなく楽しく読めた。

読了日:2012.11.2
★★★★☆

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2012年11月 6日

ruru (19:56)

カテゴリ:歴史・民俗

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