2012年12月アーカイブ

『川本喜八郎 人形―この命あるもの』


川本喜八郎 人形―この命あるもの (別冊太陽)


人形美術家・人形アニメーション作家川本喜八郎の作品と解説。

NHK人形劇『三国志』以来好きな芸術家。
私の中で人形といえばまず川本喜八郎。
子供の頃の刷り込み効果恐るべし。

高い本だからと躊躇していたが、とうとう買ってしまった!

フルカラーで作品の紹介、ご本人や関係者のインタビュー記事、作成風景などファン垂涎の1冊。
買って損なし。

今更だが、人形の首には胡粉を使わず革を貼ってアクリル絵の具で着色していたことを知った。

この本が出版された頃はご存命だったので、お元気な写真が掲載されており、今後の計画などにも触れられている。
『項羽と劉邦』見たかった・・。

人形とは何か。
人間の典型性を描く。
あるいは民族性を描く。

師であるトルンカから教えられ、その後実践していった世界観は多くの人に影響を与えたことは間違いない。

飯田川本喜八郎人形美術館には是非行ってみたい。
(・・と何年も前から思っているが実現せず・・)

読了日:2012.12.30
★★★★★

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2012年12月30日

ruru (19:27)

カテゴリ:その他

『ヘンな日本美術史』山口晃


ヘンな日本美術史
山口晃


画家山口晃による日本美術史論。

古い絵巻物や日本画をいくつか取り上げながら、技法や描かれた背景などの解説や感想など。

やはり画家は視点が違うのだなあと思うところも多いが、有名な作品が多いので理解が難しいことはなく、軽快な文章で読みやすい。

『松姫物語絵巻』を"下手ウマではなく下手くそ"、岩佐又兵衛の特徴的な人物描写に"アゴの下を取ってから来い"などと書いている。
笑ったり納得したりと楽しみながら知識を深めることができる。

一応作品の写真も掲載されているので困らないのだが、実物を見て確かめたい衝動に駆られてしまう。
おそらく今までとはまた違う視点で鑑賞するようになりそうだ。


読了日:2012.12.
★★★★☆

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ruru (19:04)

カテゴリ:その他

『花のさくら通り』荻原 浩


花のさくら通り
荻原 浩

ユニバーサル広告社は資金難により郊外の商店街にある和菓子屋2階へ移転。
現状を憂い立ち上がった若手店主たちを助けて商店街再生をプロデュースすることに。
敵は頑固な老舗店主たち・・?
ユニバーサル広告社シリーズ3作目。

2作目を読んでいなかったが、話は繋がる。
御馴染みのユニバーサル広告社メンバーが活躍する荻原流のコミカルな人情話だ。

ポスター制作の依頼をきっかけに、仕事以上の思い入れを持って寂れた商店街の再生を請け負っていくという流れ。

個性豊かな登場人物たちの動きやセリフは軽快で、商店街再生というテーマも身近で読みやすい。
杉山の娘への思いもほろりとさせられる。

しかしどうも読後の満足感が乏しい。
部分的なテンポは良いのだが、商店街再生以外の寄り道ストーリーが多いせいか全体的に間延びした印象を受けた。

いつもこの著者なら引き込まれてあっという間に読み終わってしまうのに、何となくダラダラとやっと読んだという状況が残念。
もう少し余計なところをそぎ落としてアップテンポでまとめて欲しかったと思う。

読了日:2012.12.
★★★☆☆

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2012年12月29日

ruru (12:38)

カテゴリ:国内小説一般荻原 浩(一般)

『ふぉん・しいほるとの娘〈上〉〈下〉』吉村 昭

江戸末期オランダ商館の医師として来日したシーボルトは、日本の医学向上に多大な功績をもたらすが、日本地図などを持ち出そうとした罪で国外追放となる。
彼には遊女其扇との間に稲という娘が産まれていた。
稲は自分が普通の娘とは違うことを意識し、女としての幸せよりも学問に生きることを決意して日本初の女性産科医となる。
幕末激動の時代に"あいのこ"として、名医であり罪人でもあったシーボルトの娘として特異な人生を送った稲の一生ー。

この作品の主役は娘の稲ではあるが、母親のお滝、稲の娘タカという女性三代の人生を中心に、混乱の幕末期の情勢を精密に描き出す歴史小説となっている。

鎖国の仕組みや長崎・出島の当時の様子、江戸時代の医学などが知れて面白い。
閉ざされた国の中でも独自の秩序と発展があり、特に医学の一部は西洋医学に匹敵するレベルにあったというのは誇らしい。

シーボルトが去った後日本は急激に開国へと傾いていくが、その辺りの国際事情なども詳細に書かれていて、稲の生涯というより歴史を追う印象の方が強い。

シーボルト事件のことは知っていても、シーボルトその人のことはあまり知らなかったが、来日の経緯やその後の人生などにも触れていて興味深かった。

多くの人間が連座して悲惨な死を遂げた大変な事件にも関わらず、門下生たちからの信頼が揺らがなかったことは驚きだ。
それほど日本の医師たちに西洋医学が与えた衝撃が大きかったのだろう。

再来日の際にはあまり優遇されなかったことや、再会を果たしたお滝やお稲とのぎくしゃくした関係なども描かれており、彼に人間らしさを感じつつも寂しい後日談を知ることにもなった。

家の事情でオランダ遊女となってシーボルトの愛を受け、お稲を出産したお滝。
女の身ながら医学の道を突き進んでいたものの、教えを受けていた父の門下生に犯されてタカを出産した稲。
その娘タカも、夫の死後に望まぬ未婚の子を産むこととなる。
男たちに翻弄される虚しさはあるが、皆自分の力で生き抜く力強い女性たちだ。

オランダ人の血を引くという特殊な事情を持った稲の人生は波乱に満ちている。
シーボルトを父に持ったことでの苦悩も多いが、そのおかげで多くの理解者にも恵まれている。

シーボルトと言えば教科書で見た平たい肖像画の印象しかなかったが、この作品を読んで血肉を持った人間として心に刻まれた。

歴史記述の箇所が多いので、情緒的なものを求めて読むとつらいかもしれないが、日本史好きなら間違いなく楽しめる。
著者の綿密な取材に基づく歴史描写はいつも以上に冴え渡っていて重厚な読み応えとなっている。

読了日:2012.12.23
★★★★★

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2012年12月23日

ruru (12:41)

カテゴリ:国内小説一般吉村 昭

『明日のことは知らず 髪結い伊三次捕物余話』宇江佐 真理

町医者松浦桂庵の母美佐があやめを抱いたまま転んで亡くなってしまう。
その死に疑問を持った伊三次はお文とお吉を連れてあやめを見物に行き真相への手がかりを見つける・・。髪結い伊三次捕物余話最新作。

久しぶりの宇江佐さん新刊。

登場人物たちが年を取ってきてどこか寂しい雰囲気が漂うが、今回は伊三次とお文中心に話が進むことが多く少しほっとした。

子供たちの友情や恋心、大人たちの温かな人情などが多彩な短編集になっている。
謎解きも程よく面白い。

最近宇江佐さんの作品の暗さに不安になることが多いが、特にきいや茜といった若い女性の今後が心配になってしまった。
どうなることか。

読了日:2012.12.13
★★★★☆

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2012年12月15日

ruru (17:23)

カテゴリ:国内小説一般宇江佐 真理

『最暗黒の東京』松原 岩五郎

明治中期、日本の貧民街への潜入レポート。

500日もの長きに渡り、実際に職を得て最下層の人々と暮らした記録となっている。

文明開化と共に日本は一気に進化したと思いがちだが、取り残された人々の悲惨な暮らしを克明に記されると現実はなかなか衝撃的だ。

貧民窟、最下層と言い切って冷静に観察している辺りが、同じ日本人であるのに自分の生きる世界ではないのだとはっきり線引きしていることを感じさせる。

現在の日本などでは到底想像も付かないような、例えれば発展途上中の某国のような天と地ほどの格差の中では、同じ国内でも全く別の次元で生活が営まれることを当然と考えるものなのかもしれない。
国が落ち着く中で混じり混じって中間層が増えていくのは自然の摂理なのだろう。

ここに登場するのは、不潔極まりない町で、着の身着のまま残飯を当てにするようなその日暮しの人々ばかりだが、皆生命力に溢れていて、切なさよりも逞しさを感じる。
相応の秩序があるのが面白く、人情もあり、喧騒が聴こえてくるような賑やかさもある。

著者は、物価や賃金、職業ごと或いは女子供の暮らしまで細かく記録している。
出版された当時注目を集めたというのが興味深い。

読み始めは取っ付きにくかったが、軽快な文章なので段々読むスピードが上がっていった。

明治の庶民の暮らしというのは何となく色々な書物から想像が付いていたが、更にその枠を超えた下層と言われた人々の暮らしを少しは理解することができたと思う。

記録文学として評価が高いのも納得の内容。

読了日:2012.12.12
★★★★☆

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2012年12月13日

ruru (00:14)

カテゴリ:社会・ルポ・ノンフィクション

『鳥学の100年』井田 徹治


上野の国立科学博物館「鳥類の多様性 日本の鳥類研究の歴史と成果」関連書籍として読んでみた。

明治45年に創立された日本鳥学会の歴史や鳥学の軌跡、絶滅危惧種を守る研究についてなど。

外国に先行されていた鳥学に最初に力を入れたのは、研究資金に余裕のある皇族や華族だったそう。
庭の池に降り立つ鴨を研究したり海外へ出かけたりと資金力があった方が優位であるし、興味も持ちやすい学問だったのだろう。

これを読んで日本の鳥類研究の中心である山階鳥類研究所を知らなかったことが恥ずかしくなった。
私財を投げ打ち、鳥に捧げた研究者たちの情熱は本当に素晴らしく、胸を打たれる。

絶滅危惧種を守るには大変地味で根気の要る作業が必要だ。
コウノトリと人間・牛が共に写る写真が象徴として掲載されているが、これは衝撃的。
それほど遠くない過去には共存できていたのに何故今できないのか・・。

淘汰も自然の現象ではあるが、守れるものは守りたい。
写真を撮るためにシマフクロウを追い回すことで数が減少したという記述があった。
珍しい鳥をカメラに収めたい気持ちは良く分かるので、悪気ない行為でも自然を犯す可能性があるのだということを肝に銘じたい。

一般向けに書かれたということで、特に専門的な内容にはなっていない。
鳥に興味がある人なら興味深く読めるだろう。

読了日:2012.12.
★★★★☆

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2012年12月11日

ruru (15:40)

カテゴリ:その他

『無人島に生きる十六人』須川 邦彦

明治31年、太平洋上で遭難した龍睡丸の乗組員16人は無人島へ流れ着く。
一人も欠けることなく帰還するまでの無人島生活とはどのようなものだったのか?
現実にあった遭難事故を伝聞でまとめた漂流記。

無人島を舞台にした小説は多々あるが、実際にあった話であり、主役たちが日本人かつ全員無事に帰国したというところが興味深い。

商船学校の実習学生だった著者が、実際に無人島暮らしをした船長本人から聞いた話をまとめているので、一応は事実に基づいた話である。
最初に中川船長本人の寄せ書きがあり感想まで述べている。

子供も読めるような軽快な文章で無人島生活が綴られているのだが、悲壮感がまるでないところが面白かった。
ソフトな印象の挿絵も効果的だ。

漂流記というものは大体が切羽詰ったサバイバル生活を描いていて、なるほどやはり無人島暮らしは大変だなあと思いながら読むのが相場である。
一人の場合は孤独に苛まれ、複数人の場合は争いが起こり、人間の本質や生きる意味を問うことが主流ではないだろうか。

しかしこの小説は違う。
ひたすらたくましく明るく賑やかだ。

中川船長のリーダーシップ、最年長小笠原老人の年の功、素直な若者など船員たちが一致団結して置かれた境遇に立ち向かう。

明治時代の話なので"日本男児勇ましく"という風潮が強かったこともあるだろう。
経験を語った中川船長には弱さは見せないという意地があっただろうし、著者が恩師を立てる気持ちも強かっただろうからかなり脚色はあると思う。

そうだとしても、少し不自由なキャンプ生活のようなからっとした無人島生活は読んでいて楽しい。
小笠原老人が語る当時の船員の話や無人島で生き抜く工夫なども面白かった。

全員が働き者で素直な海の男、丁寧な文章で語られ、全員無事帰国しているとわかって読み進める安心感。
『蝿の王』や『漂流』も名作だが、こういう漂流記も悪くない。

読了日:2012.12.
★★★★★

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2012年12月 5日

ruru (11:22)

カテゴリ:国内小説一般その他の作家(一般)

『十万分の一の偶然』松本 清張

東名高速道路の玉突き事故を撮影した『激突』が、A新聞「読者のニュース写真年間写真賞」を受賞する。
撮影者はアマチュアカメラマンの山鹿恭介。
事故発生の瞬間を捉えた写真の生々しさに賛否と疑惑の声が上がるー。

松本清張作品は全て読んだと思うのだが、随分昔の話で記憶はおぼろげ。
最近この作品の書評を見かけて興味を持ったのだが、読了しても再見かどうかはわからないままだった。
先がわからず楽しむことができたので構わないのだが。

アマチュアカメラマンが迫力ある報道写真を撮る機会に恵まれることは難しい。
事故発生時に居合わせたという奇跡は本当に偶然なのか?

カメラ好きだったという清張は、紫雲丸沈没事故をきっかけにアイデアを起こしたとか。
これは沈没時に写真撮影をした人がいて、撮影する間に救助ができたではないかという「人命救助と報道」論争が起こった惨事だが、清張は更に一歩踏み込んで、カメラマンの功名心と暗い情熱を描いたミステリに仕立てている。

復讐心に燃える沼田が淡々と真相を追究していく姿が物悲しい。

全体に漂う落ち着いた空気がこれぞ松本清張と思わせてくれる上質なミステリ。
派手さは無いが、伏線やトリック、人物像など全てが綺麗にまとまっていて安心して読める。


最近では携帯カメラで事故や事件の写真を撮る人は多く、マスメディアで素人の写真や動画が使用されることも少なくない。
報道という一面において重要な素材だとしても、被害者にカメラを向ける人の神経は知れないと常々思っている。
作品とは少し離れた話になるが、写真家どころか一般人のモラルさえも問わなければならない時代になっているのだと考えながら読んでしまった。

読了日:2012.11.
★★★★☆

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2012年12月 3日

ruru (10:40)

カテゴリ:国内ミステリーその他の作家(ミステリー)

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