横山 秀夫(ミステリー)の最近のブログ記事

『64(ロクヨン)』横山 秀夫

D県警の広報官となった元刑事三上は、広報室の改革に乗り出すが思うように動けずにいた。
上司の思惑、記者たちの要求、同期や部下との関係、家出した娘・・。
三上が様々な葛藤と苦闘する中、14年前の誘拐事件(通称ロクヨン)を巡り、刑事部と警務部が激しく衝突するというD県警前代未聞の事態に陥るー。


待ちに待った7年ぶりの新作。
横山秀夫健在なり!

刑事としてのプライドを押し殺して広報官として職務を全うしようとする三上。
警務部と刑事部、上司と記者、家庭と仕事・・様々な狭間で揺れ動く一人の男の心情を精緻な筆致で描き出す。

ずっしりとしたボリュームに見合う密度の濃い内容だ。

刑事ではなく広報官の三上が主役になることで、事件を追うミステリ要素よりも組織で生きる男の生き様に重点が置かれているように感じたが、結末の仕掛けは衝撃的。

様々な伏線が張り巡らされ、全てが美しく収束していく。

丁寧で無駄のない描写で全ての登場人物たちの輪郭が鮮明に浮かび上がり、物語にリアリティをもたせている。

これは警察小説でありミステリであるのだが、丹念に描かれているのは"人間"である。

執筆中精神的に追い込まれたとの話だが、これだけ綿密に創り上げようとすればそうなるのも納得。

元々心理描写に長けた作者ではあったが、『64』は特に真摯に人間を掘り下げているように感じた。

生みの苦しみは見事に昇華している。
横山秀夫の力量に恐れ入るばかり。

素晴らしい小説はたくさんあるが、結末を知って尚何度でも読みたいと思う作品は意外と少ない。
特にミステリの場合は、謎が解けてしまうとしばらくは満足してしまうものだが、またすぐに読みたくなってしまう作品だった。

大長編で値段も高いと手を出すのに躊躇している人には、損はないので是非今すぐ読んで欲しいと伝えたい。

読了日:2012.10.31
★★★★★

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2012年11月14日

ruru (23:04)

カテゴリ:国内ミステリー横山 秀夫(ミステリー)

『影踏み』横山 秀夫

影踏み (祥伝社文庫)影踏み (祥伝社文庫)
(2007/02)
横山 秀夫

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寝静まった民家に押し入るプロの"ノビ師"真壁修一が二年の刑期を終えて刑務所から出所してきた。 真壁は逮捕時に忍び込んでいた民家の女のことが気になり、その後の様子を調べ始める。女は夫を殺そうとしていたのだ・・。

まず15年前に焼け死んだ双子の弟啓二の声が常に聞こえるという設定に違和感があった。
横山秀夫もこんな非現実的な書き方をするのかと驚いてしまった。

ありそうと言えばありそうな設定なのだが、横山秀夫の作品ということで納得がいかないのかもしれない。
いつもならスルスルとその世界観に引き込まれてしまうのに、一歩引いた気持ちのまま読み終わってしまった。

主人公真壁が事件に巻き込まれたり自ら頭を突っ込みながら解決をしていく連作短編集の形である。
各話ごとに読み応えもあるし、全体としての流れも良い。

"影踏み"というタイトルを考えると、真壁の心の葛藤から解決までもがしっくりまとまっており、やはり巧いなあと思うのだが、横山作品の中では何となく入り込みきれないところがあって珍しく手放しで絶賛とはいかなかった。

読了日:2010.8.7
★★★★☆

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2010年8月 9日

ruru (20:05)

カテゴリ:国内ミステリー横山 秀夫(ミステリー)

『深追い』横山 秀夫

深追い (新潮文庫)深追い (新潮文庫)
(2007/04)
横山 秀夫

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交通課事故係主任の秋葉は、事故現場で被害者のポケベルを拾う。 被害者の妻は死んだ夫に向けてポケベルにメッセージを送り続けていた。 その妻がかつて思いを寄せていた同級生だと知った秋葉は、彼女の家を訪ねるようになり・・。 三ツ鐘警察署を舞台に組織に生きる男たちの苦悩を描く連作短編集。

事件がどうこういうよりは、野心・保身・疑心渦巻く組織内での男の人生ドラマという趣である。
警察でなくても当てはまりそうでありながら、やはり内に外に求められることは多く、特殊な縦割り社会の警察が舞台ということで緊張感はイヤでも高まっていく。
今回は更に警察署に住居も隣接しているという閉塞感が加わっているが、この圧力たるや想像しただけで息が詰まってくる。

そんな環境下での様々な立場の警察官たちの心情を描いている作品集だが、大きな見せ場や抑揚があるわけではない。
淡々と事件を追い、疑問を持ち、どう行動していくのかを一人の人間として描き出している。

どれが1番というのもないが、心に残ったといえば左遷された男の葛藤とプライドが描かれた『訳あり』、大人の上下関係が子供たちに影を落とす親の苦悩を描いた『仕返し』だろうか。

いくつかの出来事が絡み合って一つの結末を迎えていく鮮やかさ。
心の深いところまで切々と響いてくる複雑な人間心理。
常に主題にブレがなく、これ以外の結末はないだろうという落ち着きをもって本を閉じることができる。

毎度のことながら横山秀夫の作品は巧いと感嘆するしかない。
この作品も上質で素晴らしい作品だった。

読了日:2010.8.6
★★★★★

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『第三の時効』横山 秀夫

第三の時効 (集英社文庫)第三の時効 (集英社文庫)
(2006/03/17)
横山 秀夫

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殺人事件の時効成立直前、犯人からの接触を期待して被害者遺族に張り付く現場の刑事たち。 海外渡航分の時効のズレを利用して犯人逮捕を目論むが、班長の楠見だけは第三の時効を仕組み全く別の視点で犯人逮捕を成し遂げようとしていた・・。 表題作他F県警強行犯シリーズ連作短編集。

秀逸。
さすが横山秀夫である。

F県警強行犯は、我流を貫く朽木率いる一斑・策略を巡らす元公安楠見率いる二班・鋭い勘で事件を読む村瀬率いる三班から成り立っている。
3人をなかなか御しきれない課長の田畑、常人離れした班長に挑みあしらわれる班員ら・・と周りを固めるメンバーにもスポットを当てながら話は進む。

ブレのないしっかりとした人物設定と濃密な人間関係に穴はない。
ついつい引き込まれてしまい、各話ごとに次々と主人公が変わっても違和感なく作品にのめりこんでいける。

極端な設定の班長らも、時折見せる素顔が良い演出をしていてくどさを感じないところが素晴らしい。
検挙率九~十割のマイペース刑事が3人も揃うなど、空回りのハードボイルドになりそうな設定も気にならないのは巧みなストーリー展開のおかげだろう。

勿論扱う事件もよく練られていて面白いのだが、卓越した心理描写によって強行犯メンバーの内面に同化してしまうため、ミステリ的な要素よりも、キリキリと胃を痛めつけるような人間心理に心が占領されてしまう。
まるで自分が班員でもあるかのように物語に入り込んで一気に読んでしまった。

甲乙付けがたいが、一番良かったのは『囚人のジレンマ』だろうか。
課長の田畑を主人公に据え、3つの事件を同時進行で進めながら強行犯メンバーら全体を見渡す作りが素晴らしかった。

続編が書かれているらしいが、単行本化はされていないようだ。
続きも是非読んでみたいので発売を望む。

読了日:2010.8.2
★★★★★

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2010年8月 3日

ruru (22:53)

カテゴリ:国内ミステリー横山 秀夫(ミステリー)

『陰の季節』横山 秀夫

陰の季節 (文春文庫)陰の季節 (文春文庫) (2001/10) 横山 秀夫

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天下り先ポストに固執する大物OBを説得する中で浮かび上がってきた未解決事件とは・・「陰の季節」他D県警を舞台とした4編の連作集。

 

代表的な警察小説の一つであるが、緻密な心理描写が光るヒューマニズム小説とも言える。

 

プライドや打算、組織に翻弄される警察人でありながら、一個人としての在り方をも模索する登場人物たちの心情にスポットを当てており、同じ登場人物が別の視点で再登場してくるところが面白い。

 

警察という特殊な組織を詳細に描き出しているところも魅力だが、人の深層心理を深く抉り出してくる技術が横山秀夫のすごさだ。

 

全体的にほの暗い雰囲気のストーリーばかりだが、どこか突き抜けたものを感じさせる結末ばかりなのですっきりとした気持ちで読むことができる。

 

上質な作品で大満足。


読了日:2009.12.29
★★★★★


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2009年12月30日

ruru (23:19)

カテゴリ:国内ミステリー横山 秀夫(ミステリー)

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