帚木 蓬生(ミステリー)の最近のブログ記事

『薔薇窓』帚木 蓬生

薔薇窓〈上〉 (新潮文庫)薔薇窓〈上〉 (新潮文庫) (2003/12) 帚木 蓬生

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薔薇窓〈下〉 (新潮文庫)薔薇窓〈下〉 (新潮文庫)
(2003/12)
帚木 蓬生

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パリ警視庁特別医務室に勤務する精神科のラセーグは、犯罪者や警察に保護された者の診断を行っている。
日本の文化に造詣が深いラセーグは、保護されてきた失語症の日本人患者音奴に興味を持つ。
時は1900年、万博開催で沸くパリの街で外国人女性の誘拐が相次いでいた。
音奴の過去、ラセーグにつきまとう貴婦人、誘拐犯の正体と多くの謎が絡まりあう中で、 ラセーグは音奴との交流を深めていく。

タイトルの「薔薇窓」は、主人公ラセーグが好きなシテ島サント・シャペルの薔薇窓を現す。

パリ万博や当時のパリ市民の生活や文化、また日本や海外での日本人の様子などが生き生きと描かれており、自分が当時のパリの街に立っているような錯覚に陥る。

ラセーグは日本の骨董品を集めるのが趣味の日本びいきでということで、ところどころに日本文化やフランス人から見た当時の日本像が書かれている。
そのため、パリを舞台とした小説でありながら日本的要素も強く編みこまれた作品になっており、純粋な海外小説とはまた違う趣がある。

猟奇的事件の謎解きよりも恋愛的な要素や人間関係の描写の方に力が入っているので、ミステリーを楽しむというよりも、帚木さんらしい美しい描写を堪能した作品だった。

読了日:2009.10.
★★★☆☆

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2009年10月31日

ruru (21:58)

カテゴリ:国内ミステリー帚木 蓬生(ミステリー)

『ヒトラーの防具』 帚木蓬生

     ヒトラーの防具(上巻) ヒトラーの防具(下巻)

著者: 帚木蓬生 出版社: 新潮社 サイズ: 文庫 発行年月: 1999年05月

 

東西の壁崩壊後のベルリンで「贈ヒトラー閣下」と書かれた剣道の防具が発見された。 一緒に保管されていたノートと手紙から、武官補佐官として第二次世界大戦前後のベルリンに駐在した陸軍軍人香田光彦が見たドイツの戦争を描き出す。

1938年、父親がドイツ人・母親が日本人というハーフの軍人香田光彦が通訳としてベルリンの武官事務所へ赴任する。

渡独直後はヒトラーに傾倒していた香田だったが、ミュンヘンの精神病院で医師として患者のためにナチスに反抗を続ける兄雅彦の影響、下宿の主人夫婦ら一般市民との交流やユダヤ人女性との恋愛を通し、冷静な目でドイツと日本の戦争を見るようになっていく。

ヒトラーとも言葉を交わす機会を持ち日本の外交戦略に関わりながらも、ドイツ人夫婦のアパートに暮らし一般市民としてもドイツに馴染んでいく香田の立ち位置が興味深い。

香田は、同盟国の日本人としてヒトラーから信頼を受けながらもナチスに反発を感じるドイツ人でもあり、職務を全うする軍人でありながら戦争を憂いユダヤ人女性を愛するただの男なのである。

この作品は荒々しく悲惨な描写が続くような戦争小説ではない。 淡々と戦時下での人間を描いたヒューマニズム小説であるところが帚木流なのだと思う。

ドイツが舞台のため具体的な日本本国の戦争描写にはあまり触れられていないが、危うい道を進むドイツと心中していく過程がよくわかる。

母の国日本で軍事教育を受けながら、父の国ドイツで愛を知り戦争の渦中を生きた香田の運命の物語はノンストップで読ませる力作だ。

ただあまりにも「まともな」登場人物ばかりに感じる。 密告も裏切りも一切無く、香田が接する人物は皆一様に戦争とナチスを冷静に分析する良心的な人間ばかりだ。

人間の美しさに焦点を当てるのが帚木氏の作品の素晴らしいところであり好きなところでもあるのだが、小説としてやや物足りなく感じる部分でもある。

美しさと醜さが同居するのが本来の人間の姿であり、ましてや戦時下でのあらゆる強風にあおられず自分を保ち続けることは、理想ではあるが現実ではないような気がして一歩引いて読んでしまったのは私だけだろうか?

読了日:2008.12.23 ★★★★☆

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2008年12月25日

ruru (23:26)

カテゴリ:国内ミステリー帚木 蓬生(ミステリー)

『白い夏の墓標』帚木 蓬生

白い夏の墓標 (新潮文庫)  『白い夏の墓標』 (新潮文庫) 帚木 蓬生 新潮社 1983-01

肝炎ウィルス国際会議での講演のためにパリを訪れた佐伯教授は、元アメリカ陸軍微生物研究所のベルナール博士に呼び止められ、20年前に留学先のアメリカで事故死したはずの友人黒田はフランスで自殺していたと教えられる。 黒田の墓を訪ねることにした佐伯は、パリからピレネーへと旅をしながら黒田の過去と留学後の彼の人生を紐解いていくことになる。

ミステリーはどんなに素晴らしい作品でも1度読めばタネが明かされてしまいしばらく読む気にはなれないものだが、帚木氏の作品は読み終わるとすぐにまた読み返してしまう魅力がある。

ミステリーというよりは叙情的なヒューマニズム小説だからだろうか。 文章も織り成す描写もあまりに美しいのでこの世界から離れたくない衝動に駆られるのかもしれない。

パリの街・ピレネー山脈の自然描写と繊細な人物描写が堪能できる1冊。

微生物学という文学的要素から遠い題材が軸になっているにも関わらず、一貫して伝わってくるのは貧しい戦後を生きた天才科学者の生き様である。

主人公の佐伯と共に、読者である自分も自然と黒田の過去に寄り添い共感しながら読み進めることができる。 いかにも小説的なエンディングではあるが、読後感が心地よい。

直木賞候補となったらしいがあまりにもテリトリー違い。 つまらない冠がつかず良かったと本気で思う。

読了日:2008.12.20 ★★★★★

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2008年12月22日

ruru (00:29)

カテゴリ:国内ミステリー帚木 蓬生(ミステリー)

『エンブリオ』帚木 蓬生

エンブリオ 『エンブリオ』帚木 蓬生 集英社 2002-07

エンブリオとは受精後八週までの胎児のこと。産婦人科医岸川は、自身の病院にてエンブリオを培養しての臓器移植、男性の腹腔へ受精卵を忍ばせる妊娠実験など倫理を無視した生殖医療の先端技術へ挑戦し続けている。国際学会で彼の才能に目をつけたアメリカの大企業が技術の横取りを企むが、岸川は超然と彼らを迎え撃つ。

 『臓器農場』以上に医療と倫理を問う作品。主人公の岸川は、患者を救いたいという熱い想いを持ち、不妊治療に苦しんできた夫婦の最後の砦ともなる”慕われる名医”である。非倫理的な彼の治療に患者は時に涙ぐみながらも感謝を口にする。その一方で、研究と病院のためには胎児の流用や人殺しも辞さない。とにかく倫理観のみが欠落した天才医師という設定である。

 岸川の台詞に「つまり、この世の摂理や慣習、法律は、日本では胎内まではおよんでいないということだ」というのがある。岸川は、自分の行いは非倫理的であっても日本の法律に反してはおらず、倫理との葛藤は医療の宿命だと考えている。また、胎児を人と見なさないという大前提があるが故に、恐ろしい実験にも疑問を持つことなく生殖医療の研究に信念を持って取り組んでいるのだ。

 一般人の自分には、岸川の行為は限りなく恐ろしく映る。しかし、人体にメスを入れるという医療行為が受け入れられた時から、このような研究も起こるべくして起こったとも言えるだろう。この作品は小説の形を取った作者の医療技術追求への警告だ。

 作中に、余命僅かな長男のために母親が妊娠中の胎児を人工中絶してその心臓を移植するというエピソードがある。夫婦はまだ見ぬ子よりも今まで育ててきた長男を選び、進んで子供を一人殺すのだ。長男は元気に退院していき、夫婦もつらさを抱えながらも満足する。この医療行為が正しいのか間違っているのか当事者でしか何も言えないと思った。選択肢ができてしまったのだから。

 最後に解説にて京大教授福島氏が述べられている言葉を引用。
 「今、人間の知恵が問われている。そろそろ踏みとどまる限界を見定めるべきではなかろうか?」

読了日:2008.9.10
★★★★★

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2008年9月10日

ruru (23:57)

カテゴリ:国内ミステリー帚木 蓬生(ミステリー)

『賞の柩』帚木 蓬生

賞の柩 (新潮文庫)
『賞の柩』帚木 蓬生
新潮社 1996-01

199x年度のノーベル医学・生理学賞は英国のアーサー・ヒル博士の単独受賞であった。津田は、同様の研究で名を馳せていた亡き恩師の随筆に「論文剽窃」の疑惑を見つける。恩師の他にも各国のトップ研究者たちが不自然な死を遂げていることを知った津田は、学会を機にヨーロッパへ渡り真相を探り始める。

 ノーベル賞受賞への疑惑というテーマを現役医師が臨場感を持って描く。  世界中で同様の研究が行われている限り、唯一無二の結果を得るというのは難しいことだろう。この作品では、成果を挙げると共に人為的にライバルを排除してきた研究者の野心をサスペンス仕立てに仕上げている。

 研究に関する描写部分に馴染みが無いせいか、今まで読んだ作品に比べて読み進めるのに時間がかかってしまった。また、次々と明かされる真相にあまり驚きは無く、主人公の確認作業といった流れでサスペンス的な要素も弱い気がした。しかし、ブダペスト→パリ→バルセロナ→ロンドンと舞台を変えていく中での情景描写は帚木さんらしく美しい。

読了日:2008.8.30 ★★★☆☆ 

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2008年8月30日

ruru (23:59)

カテゴリ:国内ミステリー帚木 蓬生(ミステリー)

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