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『総員起シ』吉村 昭

昭和19年6月、訓練中に沈没した「伊号第三十三潜水艦」。 9年後に引き揚げ作業が行われると中からは時を止めた遺体が発見されるー「総員起シ」 戦時中浜に流れ着く無数の兵士の遺体。それらの多くが腕を切り落とされていたー「海の棺」他史実に基づく戦争小説短編集。

ただ粛々と戦争が語られていく。
海外の戦場ではなく国内でのできごとを集めている。
兵士以外の視点も多い。

綿密な取材を元に描かれているのでとてもリアルに胸に迫ってくる。

切なさや空しさ、悲しみに静かに浸っているうちに、今現代に生きていることさえ忘れてしまう。

さすが吉村昭としか言いようがない。

派手な玉砕ものだけでなくこういった丁寧な作品にももっと光が当たるようになると良いのだが。

読了日:2014.6.
★★★★★

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2014年6月 9日

ruru (00:45)

カテゴリ:国内小説一般吉村 昭

『脱出』吉村 昭

突然のソ連参戦を受け、北海道へ決死の脱出を図る南樺太の村人たち・・『脱出』。
東大寺の仏像の疎開を描く『焔髪』。
進駐軍の介入で静かな瀬戸内海の島が変わっていく・・『鯛の島』。
沖縄から鹿児島への疎開中に沈んだ対馬丸。ようやく生き延びた少年が経験したのは・・『他人の城』。
サイパン島山中の決死の逃避行を綴る『珊瑚礁』。
昭和20年、それぞれの夏。

戦争をテーマにした小説は多々あるが、舞台として本州以外を選んだ短編集となっている。
北は樺太から南は沖縄、サイパン島まで。

主人公はほとんどが少年である。

事情を把握しきれない子供の視点が終戦時の混乱の様子を効果的に描き出す。
ただ淡々と現実を受け入れて生きる姿は子供のままでいることが許されない物悲しさを感じるが、同時に子供ならではの柔軟性は力強さに繋がる。

細密な心理描写で戦争の側面を浮かび上がらせる秀作ばかりである。

一番印象的だったのは『珊瑚礁』だろうか。
一日に何度も隠れ場所を変えて山中を移動する家族の緊迫感と南の島での渇水感の迫力に圧倒された。


読了日:2013.8.1
★★★★★

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2013年8月 8日

ruru (23:58)

カテゴリ:国内小説一般吉村 昭

『仮釈放』吉村 昭

妻とその不倫相手の母親を殺した罪で無期懲役の刑に服していた菊谷が、16年目に仮釈放される。
罪の意識のない男が果たして自由を享受することができるのか・・?
罪と罰をテーマに人間の悲劇を描く。

元高校教師の菊谷は妻の不倫現場を目撃したことで激高し、妻を刺殺してその不倫相手にも傷を負わせる。
更に逃げた男を追いかけてその家に放火し、年老いた母親をも死に至らしめる。

生真面目な男の残忍さは怒りに任せた瞬間的なものではあったが、16年の月日を経ても改悛の情はない。

そんな男が模範囚として仮釈放される。

どれだけ模範的に見えても心の中までは測れないという恐ろしさ。

しかしこの小説では、そんな菊谷を幸せにはさせない。

すっかり様変わりした社会。
常に前科がばれることを恐れ、脅える日々。
昼間に故郷を訪ねることも許されず、肉親を頼ることもできない。
孤独の中に刑務所仲間との淡い友情をはぐくんでみるものの、継続は難しい。

そんな生活の中迎える結末は・・。

こんな男と結婚する女がいることも薦める保護司がいるのも違和感があるが、綿密な取材を行う吉村氏のことなので現実にもあるのだろう。
案外立ち直らせるためによくある話なのかもしれない。

追い詰められる男の心理描写がリアルで読んでいて息苦しい。

体は自由になっても、自分の全てを知る保護司にしか心を拓くことができない苦悩が心を捕らえる。

吉村流の"罪と罰"は徹底的に冷徹であった。


読了日:2013.7.
★★★★★

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2013年8月 5日

ruru (09:46)

カテゴリ:国内小説一般吉村 昭

『朱の丸御用船』吉村 昭

鳥羽藩波切村では、難破船の積荷を隠し取る"瀬取り"が度々行われていた。
未だかつて露見したことはなかったが、御城米船の"瀬取り"をしたことで村人たちは徐々に追い詰められていくー。
天保元年に起きた波切騒動を題材にした歴史小説。

難船の積荷を村ぐるみで隠し取る行為は、波切村だけでなくどこの漁村でも多かれ少なかれ行われていた行為らしい。
本来は届け出ることとなっているが、証拠は海に沈むため発覚もしにくい。
米俵があれば米が取れない漁村では貴重な食糧となる。

架空の村人弥吉の視点で話は進むが、登場人物は全て史実に基づいているとのこと。
子供を生んだばかりの妻に白米を食べさせられることを喜びながら、常につきまとう後ろめたさ。

村の完全犯罪が少しずつ破綻していく様が淡々としかし緊迫感をもって描かれている。

御城米船の事情や役人側の視点などもあり、新たに知ることも多く興味深い。

同様の行為を描いた『破船』も読んだが、主題がやや異なることもあって生々しさが強かった。
小説としては『破船』の方が読み応えがあったように思う。

本作はやや淡白な印象だが、吉村氏ならではの気象や地理などに細かいこだわりを感じられる作品で歴史小説としては完璧なのでは。


読了日:2013.5.1
★★★★☆

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2013年5月 2日

ruru (15:44)

カテゴリ:国内小説一般吉村 昭

『ふぉん・しいほるとの娘〈上〉〈下〉』吉村 昭

江戸末期オランダ商館の医師として来日したシーボルトは、日本の医学向上に多大な功績をもたらすが、日本地図などを持ち出そうとした罪で国外追放となる。
彼には遊女其扇との間に稲という娘が産まれていた。
稲は自分が普通の娘とは違うことを意識し、女としての幸せよりも学問に生きることを決意して日本初の女性産科医となる。
幕末激動の時代に"あいのこ"として、名医であり罪人でもあったシーボルトの娘として特異な人生を送った稲の一生ー。

この作品の主役は娘の稲ではあるが、母親のお滝、稲の娘タカという女性三代の人生を中心に、混乱の幕末期の情勢を精密に描き出す歴史小説となっている。

鎖国の仕組みや長崎・出島の当時の様子、江戸時代の医学などが知れて面白い。
閉ざされた国の中でも独自の秩序と発展があり、特に医学の一部は西洋医学に匹敵するレベルにあったというのは誇らしい。

シーボルトが去った後日本は急激に開国へと傾いていくが、その辺りの国際事情なども詳細に書かれていて、稲の生涯というより歴史を追う印象の方が強い。

シーボルト事件のことは知っていても、シーボルトその人のことはあまり知らなかったが、来日の経緯やその後の人生などにも触れていて興味深かった。

多くの人間が連座して悲惨な死を遂げた大変な事件にも関わらず、門下生たちからの信頼が揺らがなかったことは驚きだ。
それほど日本の医師たちに西洋医学が与えた衝撃が大きかったのだろう。

再来日の際にはあまり優遇されなかったことや、再会を果たしたお滝やお稲とのぎくしゃくした関係なども描かれており、彼に人間らしさを感じつつも寂しい後日談を知ることにもなった。

家の事情でオランダ遊女となってシーボルトの愛を受け、お稲を出産したお滝。
女の身ながら医学の道を突き進んでいたものの、教えを受けていた父の門下生に犯されてタカを出産した稲。
その娘タカも、夫の死後に望まぬ未婚の子を産むこととなる。
男たちに翻弄される虚しさはあるが、皆自分の力で生き抜く力強い女性たちだ。

オランダ人の血を引くという特殊な事情を持った稲の人生は波乱に満ちている。
シーボルトを父に持ったことでの苦悩も多いが、そのおかげで多くの理解者にも恵まれている。

シーボルトと言えば教科書で見た平たい肖像画の印象しかなかったが、この作品を読んで血肉を持った人間として心に刻まれた。

歴史記述の箇所が多いので、情緒的なものを求めて読むとつらいかもしれないが、日本史好きなら間違いなく楽しめる。
著者の綿密な取材に基づく歴史描写はいつも以上に冴え渡っていて重厚な読み応えとなっている。

読了日:2012.12.23
★★★★★

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2012年12月23日

ruru (12:41)

カテゴリ:国内小説一般吉村 昭

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