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『国銅上・下』帚木 蓬生

時は天平年間、銅山で労役に就く少年国人がいた。 過酷な労働に耐えながら、暇を見ては山に住む僧景信から文字を習い教えを受ける日々。
やがて大仏造営の人足として都に登った国人は、各地から集まった仲間や身分を越えた友情を得、通う女性もできる。
数年の月日を経て大仏は完成。
その目で開眼供養絵を見た国人は、任期が明けて国へ帰れることとなるが・・。

奈良の大仏造営を一人足の視点で描いた長編小説。

山中の銅採掘現場から都の大仏造営の現場へ。
誠実な少年が、様々な人々との出会いと別れを経験しながら成長していく。

労働は過酷で常に死と隣り合わせの生活だ。
親しい人が次々に倒れていく。
任期が明けても無事に国許へ帰れるのは一握りの人間のみ。

人を救う大仏のために人命が軽んじられるという矛盾。
多くの人々の力で造り上げられたにも関わらず屋内にあって観ることができない大仏と景信が一人で山肌に彫り続けた石仏。

出会った人々の生き方、仏の教えが鮮やかに交差して国人を導く。

国人ができすぎであったり綺麗にまとまり過ぎているのはやや面白みに欠けるが、悲壮な場面でも清清しく読みきることができるので丁度良いのかもしれない。

大仏建立を国の歴史や権力者の視点ではなく、最下層の人足を主役にしてみるとどうなるか。
帚木さんらしいヒューマニズムに溢れた大作になっている。

読了日:2012.8.
★★★★☆

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2012年8月24日

ruru (01:56)

カテゴリ:国内小説一般帚木 蓬生(一般)

『空山』帚木 蓬生

草野市議会議員となった俊子は、亡き恋人達士との思い出を辿り菅生連山へ5年ぶりに登る。 そこで見たものはあの頃と変わらない籠り桜と無残な姿をさらすごみ処理センター建設地だった。 俊子と真紀、慎一らは違法性を感じ取り、美しい山を取り戻す運動を始める。

『空夜』から5年。
達士を亡くした俊子は、倒れた夫の看病、会社・ブティック経営に加え市議会議員の仕事に奔走していた。
夢中で走り続けた5年間を振り返り、達士に導かれるようにして出かけた菅生連山でごみ処理センター建設地を目撃することとなる。

建設地は真紀・慎一が住む五条村の山向こう上山町。
他行政地区とは言え、水源を山に持つ五条村にも、ごみ処理能力がパンク寸前の草野市にも関係のある施設であることがわかってくる。

自分たちが出すごみは最終的にどこへ行くのか?
住民たちの無知、行政の無責任さ、処分場を巡る利権などごみ問題を提起した作品。

自分自身、地元のごみの焼却灰の最終処分が県外であったことを最近知ったばかりだ。
(しかも放射能ごみ騒動によって知ったというお粗末さ)

作品内ではただ反対運動を描くのではなく、根本的な問題に踏み込み、住民たちがどう答えを出していくのか導いていく。
ガチガチの社会派小説というわけでもなく、その後の真紀と慎一の恋愛や俊子の心情なども描かれソフトな印象。

前作同様恋愛部分にはどうも共感できないものがあったが、前回大人の恋愛の舞台とした美しい里山とごみ問題を組み合わせて全く趣の異なる二作目へと繋げる力量はさすが帚木さんだと思った。
春の籠り桜で始まり、秋の櫨の紅葉で終わる美しい情景描写も素晴らしい。

読了日:2012.3.22
★★★☆☆

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2012年3月23日

ruru (10:01)

カテゴリ:国内小説一般帚木 蓬生(一般)

『空夜』帚木 蓬生

幼馴染の慎一が診療所の医師として戻ってきた。 旧家の一人娘として村を出ることなく暮らしてきた真紀の心は揺れる。 一方行きつけのブティック店主俊子は、愛人のいる夫に愛想を尽かし若い恋人との逢瀬を重ねていた。 山あいの村を舞台にした二つの大人の恋愛の行方は・・。

大人の純愛というと聞こえは良いがつまりは不倫小説。

真紀の夫はギャンブル依存症で二人の仲は冷え切っている。
このギャンブル依存症については、精神科医である帚木さんの専門分野であるとどこかで読んだ。
妻を振り回すひどい夫として登場する誠だが、現実にも多く存在するのだろうし、この誠こそ著者が書きたかった人物だったのかもしれない。

つらい現実から抜け出すために青春時代の恋へ逆行するというのは良く分かるのだが、真紀の魅力がわからない。
村から出ることなく親の言うがまま、故郷が良いとも思えず人との交わりを避け・・と暗いつまらない女性にしか思えない。
慎一はなかなか魅力的な男性として描かれているが、良い大人の男が何の自主性もない女に「真紀さんはたんぽぽのようで素敵だ」などと陳腐なセリフを言うのもどうなのか。

まだ俊子と年下の恋人達士の恋愛の方が、自立しあった大人の恋愛と言う感じがして好感が持てる。

情緒豊かな情景描写の美しさはさすが帚木さん。
四季の移ろいや能の取り入れ方など素晴らしいところはたくさんあるのだが、軸である恋愛部分に共感が少なくあまり面白いとは思えなかった。

また前から感じていたのだが、帚木さんのファッション描写はちょっと古臭い・・(スミマセン)。
その組み合わせはないだろう、とかその歳でそんな服着ないでしょう、とか気が散ってしまうのである。
いつもは読み流すのだが、今回はブティックが舞台になるシーンが多かったので何度も突っ込みを入れたくなってしまった。
ローセンスで細かい描写を入れるのならいっそ触れない方が良いと思う。

元々恋愛小説があまり好きでないこともあって個人的にはイマイチな印象だが、文章や情景はとても美しい小説だった。

読了日:2012.2.
★★★☆☆

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2012年2月19日

ruru (19:07)

カテゴリ:国内小説一般帚木 蓬生(一般)

『逃亡〈上〉〈下〉』帚木 蓬生

香港で憲兵の任務についていた守田征二。 敗戦後高まった反日感情に身の危険を感じた守田は、密かに離隊。 名前を変えて命からがら日本へと帰国するが、故郷からも戦犯として追われる身となる。 自分は国のために任務を遂行しただけではなかったのか。 国家と個人を問う柴田錬三郎賞受賞作。

久しぶりに帚木さん。
文庫で上下巻2冊だけなのだが、内容が濃く重量感がある作品でかなりの長編を読んだような気持ちになった。

主人公の守田は広東で敗戦を知る。
身の危険を感じた仲間の軍曹と密かに離隊するところから彼の長い逃亡生活が始まる。
中国人の復讐から逃げるために広東から地元の九州へ、日本では「戦犯」としての逮捕から逃れるために九州から関東へ・・。

戦時中その地位は確固たるものだと思えた。
民間人には恐れられ、疑わしきスパイを拷問して死に至らしめたこともあるが全てはお国のため。
前線では"戦争"として罪に問われることはないのに、自分たちの行為は"殺人"とされる理不尽さ。

敗戦と同時に追われる立場となった憲兵たちの苦悩が、戦時中の記憶と共に繊細に描かれていく。

守田は、憲兵としてスパイをあぶり出し治安維持に務める憲兵の仕事に誇りを持っていた。
土地に密着して時には中国人になりきり、冷徹に職務に当たりながらも地元の人間との交流もある香港での生活は、戦争といって想像する戦地の様子とは全く違う。
敵も銃を持って向かってくる兵士ではなく、普通の生活をしながら活動を続けるスパイたちという点が問題を複雑にしている。

この作品では守田たち憲兵を一方的な立場には置かず、守田の記憶や心情を追うことで戦争について考えさせるよう冷静な視点を保っている。

敵国人にとっては加害者であったことは間違いなく、残忍な行為も赤裸々に明かされる。
しかし、それぞれは赤紙一枚で召集された農家や商店の息子たちでしかなく、彼らをその職務に当たらせたのは"国"だったのではないのか。
末端の兵士までを戦勝国の法廷へ送り出し処刑を手伝う"国"への疑問は、自らの存在への問いかけとなって彼らを襲う。

守田は逃走しながら憲兵時代の職務、自ら手を下した人たち、そして大切な家族へと思いを馳せる。
崩れた信念、後悔、国への疑問、怒り、悲しみ、愛・・。
長い逃亡生活の末に彼は1つの答えにたどり着く。

戦争の理不尽さ、個人の無力さなどを考えさせられる力作だった。
読み応えは十分。
しかし内容が重く、気を引き締めて読み始めないと心が折れてしまうかもしれない。

読了日:2012.2.
★★★★★

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2012年2月 6日

ruru (10:22)

カテゴリ:国内小説一般帚木 蓬生(一般)

『アフリカの瞳』帚木 蓬生

アフリカの瞳 著者: 帚木蓬生 出版社: 講談社 サイズ: 文庫 ページ数: 569p 発行年月: 2007年07月

10人に1人がHIV感染者という南アフリカ。 日本人医師作田は、市立病院に勤めながら、週2回は友人が営む貧しい黒人相手の診療所でも患者たちの治療を行っている。 アパルトヘイトが撤廃され黒人政権になっても根強く残る人種差別と貧富の差。 作田は効果の無い安価なHIV治療薬を奨励する政府、貧しい黒人患者で人体実験を行う欧米製薬会社を相手に戦いを挑む。

貧困とHIV感染が蔓延し、多くの貧しい人たちがなすすべもなく命を落としていく南アフリカ。 日本人医師作田を中心に、心あるわずかな人たちが立ち上がる様が描かれている。

国内の政治的な問題も取り上げられてはいるが、日本を含め先進国と言われる外国の無意味な援助などについても触れており考えさせられることが多い。

子供を多く産むことが求められる女性たちに避妊の教育が行き渡らないこと、生活に必死でHIVについての知識を学ぶ場所も無いこと、感染を口にできない雰囲気の中更に感染が広がっていくこと。

全てにおいてもどかしく悔しく思える現状の中でも、知識と情報を得て国を変えていこうという人間のパワーを感じることができる。

黒人女性は人種と性別の二重差別を受けている、というくだりが胸に残った。
しかし、この小説で描かれているように草の根的な活動で国を変えていくのもまた女性なのだ。

命とお金の関係も考えさせられる。
治療方法があるのに施すことができない医師作田のやるせない思いは、周りを巻き込みながら現状打破への道を切り開いていく。

最近はアフリカへの援助の話を身近で聞くことが少なくなった気がする。
昔と比べれば状況は少しずつ良くなっていると勝手に思い込んでいたが、まだやれることはいくらでもあるのだと考えさせられた。

文章の進みが平易で今まで読んだ帚木作品とやや異なる気がしたが、医学的視点のヒューマニズム小説であることに変わりはない。

読了日:2009.1.4
★★★★☆


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2009年1月 8日

ruru (21:35)

カテゴリ:国内小説一般帚木 蓬生(一般)

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