楡 周平の最近のブログ記事

『介護退職』楡周平

大手家電メーカー部長の栄太郎は、海外と日本を行き来しながら仕事に邁進してきた。
しかし、秋田で一人暮らしていた母の介護をきっかけに暮らしが一変する。
受験を控えた息子、介護疲れで倒れる妻、当てにならない弟夫婦。
栄太郎はとうとう会社を退職するところまで追い込まれる・・。

家庭のことは妻に任せ、仕事のみで生きてきたエリートサラリーマン栄太郎。
母を引き取り介護を始めたことで様々な問題が起こってくる。

主題としては重要な社会問題であり大変興味深い。
しかし設定がどうも一般的でなく、介護に関しては所詮エリート男性の視点でしかない薄い内容だと感じた。

栄太郎が年収1000万円あるにも関わらず介護にかかる金ばかりを心配していたり、プライドのために自ら退職、それでいてたった5000万円の貯金しかないと絶望的になり、結局は介護は妻と義妹に任せて自分はヘッドハンティングでステップアップして大団円という結末。
1度倒れた妻を置いて海外赴任し、自分のキャリアを活かせることに嬉々としていることもいただけないし、途中から肝心の母の存在が完全に無視されている。

本来の介護退職は、もっと切実に切羽詰っており、これほどドライではない。
どんなに一線で活躍するエリートでも介護をきっかけにキャリアが絶たれる可能性があるということが書きたかったのはわかる。
しかし終始仕事の心配ばかりの身勝手な男の話にまとまってしまったのが残念。

楡さんは好きな作家の一人だが、単なる企業小説の方が内容があって面白い。


読了日:2013.12.12
★★★☆☆

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2013年12月13日

ruru (13:21)

カテゴリ:国内小説一般楡 周平

『マリア・プロジェクト』楡 周平

フィリピン・マニラ郊外にある研究施設では、胎児の卵子を使って処女をも懐妊させるという「マリア・プロジェクト」が極秘裏に進められていた。 更に彼らは、創り出された子供たちやスラム街からさらってきた子供たちを臓器移植にも利用していた。 商社マンとしてマニラに赴任していた瀬島は、かつての恋人諒子が中絶した胎児の卵子が実験に使用されていることを知り、家族を拉致されたスラム街の男たちと共に奪回を計画する。

全てが金次第で戸籍制度も機能していない国でなら、本国ではできない実験ができる。
乗り込んできた外国人らが財力によって人体実験を繰り返している。
スラムから子供が消えたところで警察など当てにできないという恐ろしい背景。

この話はフィクションだが、貧富の差が命の重さの差と比例しているのは現実だと思う。
自分の知らないところで、本当にこのようなことが起きているのではないかと想像して背筋が寒くなった。

この小説には2種類の研究が軸として描かれている。
1つはオーダーベイビー。
富裕層の夫婦からの注文に合わせ、高スペックな卵子を使用して代理母に子供を産ませる実験。
代理母は処女の方が良い、キリストの母マリアのように。

2つ目は、人工授精の際に予備として生み出した命の使い道としての臓器移植。
予備の肉体は同じDNAでの臓器移植をも可能とし、拒絶反応を避けることができる。

人間の尊厳を踏みにじり命を弄ぶ研究者たちに怒りを感じ、また詳細に描かれていく実験の様子に吐き気すら感じながらも引き込まれて一気に読んでしまった。

人工授精や臓器移植は元々人間を救う為に生まれた医療技術なのだとわかってはいるが、人の手で命を創り出したり、他人の死の上に成り立っている技術であるという現実から逃げることはできない。
倫理観や良心という薄い膜1枚で成り立っている怖さを常に感じる。

さすが社会派の楡さん。
毎回微妙な社会問題を上手く小説に取り込んで作り上げてしまうのが本当にすごい。

主人公の瀬島・元恋人諒子の感傷的かつ受動的なところと、後半アクション映画のようになっていったのは個人的には好みでないのだが、読み応えは十分で考えさせられる作品だった。

読了日:2010.10.11
★★★★☆

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2010年10月13日

ruru (01:50)

カテゴリ:国内小説一般楡 周平

『プラチナタウン』楡 周平

プラチナタウンプラチナタウン (2008/07/23) 楡 周平

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大手商社四井に勤めるエリートサラリーマン鉄郎は旧友の誘いで故郷宮城で町長となる。
150億円の借金と進む過疎を打開すべく、巨大老人ホーム建設計画で逆転を狙う。

財政破綻間近の東北の過疎地を舞台に、気が滅入るような現実的な社会問題をまとめてからっと解決させている。

医療と娯楽の充実があれば過疎地にも人は集まるし、老後の暮らしとしても田舎の方が充実するわけで上手い組み合わせでこんな風に解決できれば良いのにと思ってしまう。

もちろん小説なのでとんとん拍子に話が進み過ぎるところはあるが、考え方一つ、意外なところで上手くいってしまうところも面白い。

無駄の代名詞の箱物でも、人がいるからこそ生きるというのがよくわかる。

実際はここまで過疎地にかける大企業がないということはやはり利が取れないということか。

風刺的でポジティブなストーリー展開が良かった。


読了日:2010.4.25
★★★★☆

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2010年4月26日

ruru (21:39)

カテゴリ:国内小説一般楡 周平

『骨の記憶』楡 周平

骨の記憶骨の記憶 (2009/02) 楡 周平

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末期癌の夫の看病をする清枝の下に50年前失踪した父親の遺骨が送られてくる。
添えられていた手紙には父親の死についての詳細が書かれており、差出人は集団就職で上京後焼死したはずの同級生の名前であった・・。
旧家の跡取りである曽我弘明、父の失踪後曽我家の援助を経て妻となった清枝、貧しい百姓の家に生まれ清枝に思いを寄せ、弘明を嫉み続けた一郎。
東北の山間部に生まれ育った三人の同級生が辿った人生とは。


平成の現在、栄華を極めた曽我家は没落して見る影もない。
清枝が、夫弘明の治療費のために最後の山を売ることで物語は始まる。
夫への愛をもって看病に尽くす清枝だったが、父の死の真相はそんな彼女の人生を否定するようなものだったのだ。

 

手紙から時代は遡っていくが、語られる人生のほとんどは長沢一郎のものである。
旧時代から続く貧富の差、戦争の傷跡が残る中での戦後復興の時代において、同じ学校で学ぶ同級生たちは全く違う道を歩き始める。

 

家計を助ける為に集団就職で上京する貧しくも純朴であった少年一郎。

常に彼につきまとう出自。

黙って受け入れるのか、切り捨てるのか。

ある出来事を境に彼の人生は大きく変わり始める。

 

混沌とした時代から一気に復興へ突き進む様子を感じることができたのが面白かった。

また、成田空港建設や東京湾の埋め立て地等用地転売の話なども興味深く、経済小説ではないが楡周平らしさが出ていると思った。

幼少期の経験が人生を大きく左右していく人間の生き様が生き生きと描かれていて読み応えは十分。

故郷での暮らしぶりの描写は生々しく、五感で時代を感じることができる。

 

衝撃的なプロローグ・エピローグも重要だが、恐ろしさよりも切なさを感じさせられる。

とにかくテンポが良くどんどん引き込まれて徹夜で読んでしまった! 

読了日:2010.2.17
★★★★★

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2010年2月20日

ruru (14:32)

カテゴリ:国内小説一般楡 周平

『フェイク 』楡 周平

フェイク (角川文庫)
『フェイク 』
楡 周平
角川書店 2006-08

三流大学を卒業後銀座の一流クラブでボーイとして働き始めた陽一は、雇われママ摩耶の運転手を務めるようになったことをきっかけにママからある"仕事"を頼まれる。
大金を手にすることができた喜びもつかの間すぐに状況は一変、元の安月給ボーイに逆戻りと思いきやまたもやママから"相談"を持ちかけられ・・。
銀座を舞台にした騙し騙されのコンゲーム小説。

楡 周平と銀座の夜??と違和感を持ちながら読み始めたがさすがの出来栄えで面白い。

「高級クラブの裏側」であったり、「愛人」「詐欺」「借金」「恐喝」等々どこにも日向の要素がないのだがコメディタッチで楽しめ後味の悪さもない。
平凡な青年陽一が虚飾の世界に翻弄されながらも成長を見せる(悪い意味で?)ラストは痛快。

読了日:2008.7.15
★★★★★


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2008年7月15日

ruru (22:24)

カテゴリ:国内小説一般楡 周平

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