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『柴笛と地図』三木 卓

敗戦後中国から着の身着のまま引き揚げてきた加納一家。 高校生となった豊三は社会科学研究部で社会運動に参加し、文芸部で小説を書く。 不自由な左足への劣等感を抱えた貧困生活の中で、感性豊かな高校生活を送る豊三の青春。

『裸足と貝殻』続編。

前回は、餓死寸前で中国から引き揚げてきた加納一家が故郷の静岡に落ち着くまでが描かれていた。
母は教職に就き、祖父は野天理髪師となり、兄は東京の大学へ進み、豊三は中学を卒業した。

敗戦と貧困は子供にも様々な影響を与え、強制的に精神を鍛え上げていく。
現代との精神年齢の差は驚くほどだが、これは著者の分身豊三だけではないだろう。
混沌とした社会の中で、子供たちは政治や思想、国の在り方までに心を砕き、自分の生活向上を望んでいる。
こうした深慮に満ちた青春時代を過ごした青年たちが、その後の高度成長期を支えていったのだろう。

不自由な左足に劣等感を抱え、父親もなく貧しい生活を送る豊三は、自然と共産主義へと傾倒していく。
豊三はただの高校生でそれほど深入りをしていたわけでもないが、党員獲得の経緯や社会での有り様などを少しは理解することができた気がする。

豊三自身は党への疑心をぬぐうことができず、フェードアウト。
部活動も社会科学研究部から文芸部へと場を移していく。
所詮末端の党員の面倒までは見てくれぬだろうという冷静な気持ちは、子供ながらも生活に根ざした現実主義者だ。

勉強に、読書に、音楽に恋。
個性豊かな先輩や友人との交流の中での豊三の青春は充実感に満ちている。
問題は山積みで生活自体は厳しいものだが眩しさを感じるほどだ。

前作は中学卒業で、今作は高校卒業で話は終わる。
まだまだ先が読みたい気持ちになるが、続編は出ていないようだ。
豊三のその後は著者自身の作品に見ることができるのかもしれない。
こちらの作品も豊かな感性と細やかな心理描写が心地よいものだったが、他の作品もきっと素晴らしいだろうと期待できる。
実はこの2冊まで読んだことがなかったのだが、今後色々と読んでみたい。

読了日:2011.5.2
★★★★★

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2011年5月 3日

ruru (12:50)

カテゴリ:国内小説一般三木 卓

『裸足と貝殻』三木 卓

終戦後、小学5年生の少年豊三は祖父・母・兄と共に引揚げ船で日本へと戻ってきた。 中国で育った豊三にとって日本は未知の国。 敗戦で国が混乱する中静岡で始まった生活は貧しく困難なものだったが、豊三は逞しく生き生きと学校生活を送っていく。

著者の自伝的小説。
終戦後の日本の様子や引揚者の生活を一番無力な子供の視点で追っていくのが新鮮で面白い。

中国で父と祖母を亡くし、着の身着のまま日本へと戻ってきた加納一家。
親戚の家に身を寄せるものの自立を目指して母はすぐに働きに出る。

地元の小学校に入った豊三は、本を読んでは小説を書き、政治に興味を持ち、不自由な左脚にコンプレックスを抱きながらも友人を増やし共に影響しあいながら成長していく。

先生は元軍人に古本屋に芸術家にと多種多様な寄せ集め。
学歴詐称の母小夜も高校生だった兄の鷹次も教職にありつけるような時代だった。

隣り合わせの死、食糧難、貧富の差、アメリカ支配下の政治や思想の取り締まり・・。
混沌とした世の中にあって、あるべきことを受け入れながら逞しく生きる豊三に戦後の少年たちの姿を見ることができる。

悲壮感など全くない。
受け入れて進むしかなかった戦後。

子供の豊三だけでなく周りの大人たちも全て、ただただ前へと進んでいく当時の日本人の底力を感じては静かな感動に浸ることができた。

久しぶりに上質な小説を読んだという満足感がある。

読了日:2011.4.4
★★★★★

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2011年4月 5日

ruru (20:02)

カテゴリ:国内小説一般三木 卓

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